室温で強磁性をもつ磁性半導体を発見


 磁石の性質を兼ね備えた半導体材料(磁性半導体)は「スピンエレクトロニクス材料」として注目され、東大、東北大、東工大など多くの研究機関で精力的に研究が進められている。しかし、これまでに研究された磁性半導体は、キュリー温度が低く、低温にして初めて強磁性を示すので、新しい機能性デバイスを作る上での障害になっていた。キュリー温度は、最も高い東北大学で開発されたガリウムマンガン砒素(GaMnAs)でも110Kであった。
 東京農工大学(工学部物理システム工学科)の佐藤勝昭教授は、ロシアからの訪問教授メドベドキン博士、および、石橋隆幸助手とともに、2燐化カドミウム・ゲルマニウム(CdGeP2)というカルコパイライト型三元化合物半導体結晶の表面層(千分の一ミリの深さ)にマンガンを高い濃度で導入することに成功し、この新材料が室温でも強磁性をもつ磁性半導体であることを見出した。室温強磁性は、VSMで磁気ヒステリシスが観測されたことや、表面の磁化が磁気力顕微鏡(MFM)で見られたことから確かめられた。キュリー温度は320Kであった。また、1cmあたり5万度もの大きなファラデー効果(磁気光学効果)があることも見出された。
 現在は基礎研究の段階であるが、今後材料開発を進めれば、スピントランジスタや可視光用光アイソレータなどの新機能デバイスの実用化に道が開かれると、期待している。
 なお、詳細は、9月4日に北海道工業大学で開かれた応用物理学会の講演会、9月14日に早稲田大学で開催された日本応用磁気学会の講演会、9月14日に仙台国際センターで開催された国際シンポジウムPASRPS2000で発表されたほか、応用物理学会の英文論文誌JJAPのVol.39 Part2, No.10A, L949-951 (2000)に速報(Express Letter)として掲載された。
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特許出願:特願平12-261367

応用磁気学会発表OHP(英文)

磁性半導体Q&A


参考資料:

  1. 関連分野の研究者

     
  2. 東大・(院)工学系研究科 田中雅明助教授 masaaki@ee.t.u-tokyo.ac.jp  
  3. 東北大・電気通信研究所 大野英男教授 ohno@riec.tohoku.ac.p  
  4. 東工大・像情報工学研究施設 宗片比呂夫教授 hiro@isl.titech.ac.jp  
  5. 東工大・(院)理工学研究科 吉野淳二教授 jyoshino@emmy.phys.titech.ac.jp  
  6. 阪大・産業科学研究所 吉田博教授 hiroshi@sanken.osaka-u.ac.jp  
  7. 広島大・先端物質科学研究科 小口多美夫教授 oguchi@hiroshima-u.ac.jp

  8. 2燐化カドミウム・ゲルマニウム(CdGeP2)

     
  9. 化合物半導体の1種、IV族半導体(例:シリコンSi)のIV族元素をIII族元素(ガリウムなど)とV族元素(砒素、燐など)で置き換えるとIII-V族半導体(ガリウム砒素GaAsなど)が得られる。このIII族元素を交互にII族元素(亜鉛ZnやカドミウムCdなど)とIV族(シリコン、ゲルマニウムなど)と置き換えるとII-IV-V2族カルコパイライト型半導体が得られる。半導体としての性質はIII-V族に類似し、p型もn型も作製できる。カルコパイライト構造については、電子情報通信学会編「先端デバイス材料ハンドブック」(オーム社1993)のp.58に佐藤勝昭の解説があります。

  10. CdGeP2を使ったメリット

     
  11. これまで、田中先生、大野先生、宗片先生らはIII-V族にマンガン(Mn)を添加していたのでMnを高濃度に添加することが出来なかった。III族を2価のMn元素で置き換えるのは結晶的に難しいが、II族は置き換えやすい。CdGeP2はp型を作りやすい。  
  12. 阪大吉田博教授の理論では、Mn添加半導体が強磁性をもつにはp型半導体にする必要があるということです。また、広島大小口教授によると米国ノースウェスタン大学で第1原理計算によって、ごく最近、II-IV-V2族半導体の一種ZnGeAs2:Mnで強磁性になることが予言されたそうです。

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