「太陽電池のキホン」Q&Aコーナー

年月日質問回答
2011.09.23 佐藤教授
おはようございます。田中です。
お忙しい中、ご返信くださり誠に有難うございます。
日本発の新技術であり、黒色であるモジュールも確かにシンプルなところが気に入りました。
教授のおっしゃる通り早速、CIGS系薄膜太陽電池を検討してみます。

最後に疑問に思うところをご質問させて下さい。

> 太陽光のスペクトルの利用としてはCIGSが優れています。トータルとして同じ変換効
> 率でも、シリコン系では捨てている近赤外光をより多く利用しているため、曇りの日(
> 短い波長の光の成分が少なく、波長の長い光の成分が多い)の発電量が多く、年間総発
> 電量が多くなったのではないかと思います。
→教授のお話を拝借すると、常に天候が快晴であるはずは無く、今年は曇りや雨の頻度が感覚的に多いように感じます。

ここで2点ご質問です。

結晶系シリコン太陽電池、いわゆるHIT以外の単結晶太陽電池であれば晴れている場合、CIGS系薄膜太陽電池と比較して変換効率が 優れているので、同じシステム容量(例えば3kw)と同じ方角(例えば真南)、同じ傾斜角度(例えば傾斜30℃)で設置している場合は 結晶系シリコン太陽電池の実発電量は多くなる。つまり常に晴れていれば、結晶系シリコン太陽電池の方がCIGS系薄膜太陽電池と比較して 実発電量が多くなるということでしようか。仮にそうであるなら、晴れの日に放射されている太陽光を最も電気に変える能力に優れている のが、結晶系シリコン太陽電池だということでしようか。「半導体の光吸収スペクトル」の記述を拝見すると、「CuInSe2」の光吸収が 最も優れているように理解しました。Cu、In、Ga、Seはそれぞれ光の波長を吸収できる領域が異なっており、この4元素を適切に配合する ことにより、教授のおっしゃる太陽光のスペクトルを無駄なく電気に変えていると理解しました。
別の資料によれば「禁制帯幅が約1.4 eV 付近にある半導体が太陽電池に最も適している」とありました。In、Gaがこの帯幅付近にある 資料を見ると、教授のおっしゃることも勝手に納得しております。
一般的に考えても、日本は、四季がありますので、曇りも雨も多いことから、教授のおっしゃる太陽光のスペクトルの利用としてはCIGSが 優れているため光の吸収力が高く、結果、その光を無駄なく電気へと変えていると勝手に解釈しております。

また、結晶系シリコン太陽電池は温度上昇により、1℃当たり0.4%の損失が発生すると聞きました。しかし、CIGS系薄膜太陽電池は 結晶系シリコン太陽電池と比べて、温度が上昇しても損失が発生しにくいと知りましたが、本当なのでしようか。

上記の認識に誤りがあれば、忌憚なくご指摘下さい。また、ご教授をお願い致します。
田中様、佐藤勝昭です。
 ほぼ、田中様のご理解でよいと思います。
ただ、「Cu、In、Ga、Seはそれぞれ光の波長を吸収できる領域が異なっており、この4元素を適切に配合することにより、教授のおっしゃる太陽光のスペクトルを無駄なく電気に変えている」というご理解は、半導体物理的には間違いです。Cu、In、Ga、Seがそれぞれ光の波長を吸収しているわけではなく、CuInSe2とCuGaSe2という化合物半導体を作ることで、高い吸収係数をもたらしています。そして、バンドギャップが1.04eVと小さなCuInSe2と、バンドギャップが1.68eVの適切な合金を作ることで、変換効率が高い1.4eVに近づけようとしているとご理解ください。
 また、CIGSのバンドギャップがシリコンより高いことによって、変換効率が温度上昇の変化を受けにくいとお考えください。
また、何かわからないことがあれば、お尋ねください。私のわかる範囲でお答えします。
2011.09.22 佐藤教授
佐藤教授の著作とホームページを拝見し、失礼とは思いましたがメールをさせて頂きました。田中と申します。
教授が筆を執られた「太陽光電池のキホン」を拝見し非常に感銘を受けました。
お仕事等で多忙のところ、恐縮ではございますが、教授へご質問をさせて下さい。質問する背景として、東日本大震災が起こってから、自然エネルギーを考え太陽光発電システムを私の住まいへも導入したいと思ったからです。しかしながら太陽光発電システムのメーカはシャープを筆頭に、三洋など国内外を含めると多数あります。どのメーカを導入すべきか迷ったところに教授の本を拝見した次第です。

ここから質問の内容となります。

太陽光発電システムの某販売代理店によれば「HIT」というモジュールが最も発電し、CIS(またはCIGS)太陽光モジュールが様々な光を吸収する技術であるため、HITでは無い単なる単結晶モジュールの発電にも匹敵するあるいは上回ると説明を受けました。その根拠として、NTTファシリティーズが行った北杜市の製品技術別太陽光の月別発電量の比較データを見せて頂きました。
教授の本にある「太陽光のスペクトル」、「太陽電池の比較」、「半導体の光吸収スペクトル」、「CIGS薄膜太陽電池の結晶構造と物性」、「CIGS薄膜太陽電池セルの構造と特性」に関する記述を拝見し、ソーラーフロンティアやホンダソルテックが提供する次世代太陽光発電システムに大変興味を持ちました。教授の本を読んで、変換効率だけでは判断できないと気づきました。

教授へご質問させて頂きたいことは、CIGS薄膜太陽電池の導入コストを考慮しなければ、HITを除く単結晶と比較してCIGS薄膜太陽電池の方が想定される年間の発電量が多いため、今後最適な太陽電池と考えることはできるのでしようか。私自身はこのCIGSという技術にとても注目しています。
多忙と存じますが、教授の見解を頂戴できますと助かります。
田中様、佐藤勝昭です。
 メールありがとうございました。また、拙著をご購読賜り厚く御礼申し上げます。
CIGS太陽電池パネルをご検討との由、以前、開発の一端に関わったものとして、大変うれしく存じます。
結晶系シリコン太陽電池とCIGS系薄膜太陽電池を単純に比較することは、大変むずかしいと存じます。

 太陽光のスペクトルの利用としてはCIGSが優れています。トータルとして同じ変換効率でも、シリコン系では捨てている近赤外光をより多く利用しているため、曇りの日(短い波長の光の成分が少なく、波長の長い光の成分が多い)の発電量が多く、年間総発電量が多くなったのではないかと思います。
 製品の信頼性に関しては、結晶シリコン系は長い開発の歴史があるので技術が枯れているのに対し、CIGS系は(もちろん、製品としての信頼性はメーカーが保証しているのですが)大量生産が始まってまだ日が浅いので、十分に問題点が洗い出され解決したとはいえない(枯れていない)と思います。
 しかし、シリコンに比し省資源であること、シリコン系の暗青色と違ってCIGSは真っ黒であることなどCIGSならではの魅力があります。私も、もし今太陽電池を導入するならCIGSにしたと思います。日本発の新技術を応援する意味でも、CIGSを導入されてはいかがでしょうか?
 ただし、太陽光パネルの設置に関しては、経験のある業者に依頼しないと、雨漏りなどの原因になりますので、その点も考慮して契約されることをおすすめします。
2011.06.01 佐藤様、初めまして。
”太陽電池のキホン”、最近の太陽電池事情をうまくまとめてありたいへん参考になりました。
16ページの計算をしていて気付いたのですが、一秒間に太陽から受け取るエネルギーが1.75 X 10^14 kJ で単位が ”kJ”のためその後の計算が三ケタづつ小さくなっている のではないでしょうか?
つまり地球が1年間に受け取るエネルギー3.86 X 10^24 J、石油換算トンで100兆トンになるのではないでしょうか?
よろしくお願いいたします。(杉浦さん)
杉浦様、佐藤勝昭です。  計算の間違いをご指摘頂きありがとうございます。 確かに、3桁違いますね。面目有りません。今旅先で原稿がないのですが、 修正しなくてはなりませんね。確かめたつもりだったのですが・・ 帰宅してから、確認の上、ホームページで修正をアナウンスしたいと思います。  ありがとうございました。

訂正

p.16 表題:「地球が太陽から受け取るエネルギーは石油換算で年間→100兆トン
5行目~12行目:E=1.37[kJ/m2]×1.28×10^14[m2]=1.75×10^14[kJ]=175000[TJ](テラジュール)
になります。
 1年間では、t=365×24×3600s=3.1536×10^7[s]を乗じて、5.52×10^24Jのエネルギーを受け取っていることになります。このうち約30%は雲などによって宇宙に反射されますから、実際に地球が受け取るのは3.86×10^24Jです。
 これを石油に換算すると、
1石油換算トン=41.9[GJ]=4.19×10^10[J]
なので、毎年9.22×10^13石油換算トン(約100兆トン)のエネルギーです。
2011.05.13 「太陽電池」のキホンを拝読いたしました。
この書の中で、究極の低コスト化は高効率化です。とありますが、高効率になるのはいつ頃でしょうか?
また先日、菅総理が中部電力浜岡原子力発電所を停止するいう要請しましたが、電力不足にならないのでしょうか?
ご回答よろしくお願い申し上げます。(岡山市、Yさん)
 お手紙ありがとうございました。「太陽電池」のキホンをご購読いただきありがとうございます。ご質問は(1)高効率になるのはいつ頃か、(2)浜岡原発の停止で電力不足にならないかの2点ですね。

(1)高効率になるのはいつ頃か

 高効率という点では、038項の表1(p91)にありますように、III-V族系の3接合タンデムの小面積セルで41.6%(大面積モジュールでは、36.1%)という高効率が達成されており、実際、宇宙ステーション、人工衛星、レース用ソーラーカーで活躍しております。NEDOの長期ロードマップによれば、2030年にセル効率50%、モジュール効率40%を達成することが目標とされています。しかし、問題はコストです。III-V族は、宇宙用など注文生産のため、1品ものですからコストがべらぼうにかかっています。表1でもIII-V系については、記載していないのはそのためです。
 さらに、日本の先端技術である「量子ドット」を使うと理論的には60%以上の高効率が期待されています(量子ドット太陽電池についてはp.180参照)。これは、東大の荒川先生らが国の最先端プロジェクトで取り組んでおられるもので2015年頃には結果が出ると思いますが、何しろ研究室段階のものですから、大量生産向きではなくコストはどれくらいかかるかの見当もつきません。
 集光型にして500倍の集光をすれば、面積は1/500で同じ出力が得られるので、たとえ高価なセルでもコストをシリコン並みに下げることができると言われていますが、これも今後の研究課題です。
 本の「はじめに」(003ページ)に書きましたように、もっと高効率で低コストかつ省資源の太陽電池の開発は今後の課題で、若い人々がこの分野に加わって、知恵を絞り、力を合わせれば、きっと2030年よりも早く、実現すると信じています。

(2)浜岡原発の停止による電力不足

 浜岡原発が中部電力の総発電量に占める割合は10-12%です。毎日jpによれば、『夏場に向けて、東電への融通中止に加え、武豊火力発電所(愛知県武豊町)再開で供給力を上積みするが、7月の供給力はピーク電力(2560万キロワット)を2・1%(55万キロワット)上回るだけ。「企業や家庭の冷房需要が増える夏場は気温の1度上昇で電力使用が80万キロワット増える」(アナリスト)とされており、薄氷の対応となる。』と書かれていますが、原発を止めても供給電力はピーク需要を上回っていて余力がありますから、生活スタイルや工場の生産体制を変えて、節電さえすれば電力不足は回避できるはずです。個人的見解ですが、原発推進派の人々は、電力不足をあおって、今回の原発停止が他の原発に及ばないよう予防線を張っているのではないかと疑っています。