教科書:佐藤・越田著「応用電子物性」(コロナ社)
第4回の学習事項
光の反射、斜め入射、p偏光、s偏光、ブリュースター角、垂直入射の反射の公式、インピーダンス整合と電磁波の反射、光吸収と反射、偏光子、偏光プリズムと光学異方性、偏光を用いた電子デバイス:液晶ディスプレー、光磁気ディスク
第4回の問題:光の吸収が強い物質は反射率が高いことを反射の公式を使って説明せよ。
[解答] R={(n-1)^2+κ^2}/{(n+1)^2+κ^2} 吸光度を表すκがn±1より十分大きいとRは1に近づく。
第4回のQアンドA
- 光物性を理解するための予備知識として何を勉強するのが最もよいか(H1花岡)→A. 光の伝播の部分については、電磁気学のマクスウェル方程式のあたりを勉強して下さい。光学遷移については、バンド構造など固体物理の知識があると良いでしょう。本当に理解したければ、試験の前に試験に出そうなところだけを読むというやり方をやめて、どんな本でもよいから、1冊、最初から最後まで通読されることをお勧めします。(応用電子物性は、私と越田先生が話し合って書きました。多くの教科書は、外国の本の何処かに書いてあることの丸写しですが、この本は、すべてが書き下ろしです。通読されることをお勧めします。)
- 表面を磨いた半導体は金属みたいに光沢があるのか(H2倉岡)→A. シリコンは屈折率が3.5程度あり、κも0.5程度ですから、R〜31%となります。屈折率が高い場合にも反射率が高くなるのです。
- p偏光、s偏光の立体的な面がつかめない(H1渡壁)→A. 図1を参照して下さい。
- p偏光に反射率ゼロになる点があるのは何故か(H2小松)→A. p2参照
- なぜ、p偏光だけがある角度で反射率0になるのか。(H2 綾努)ブリュースター角はp偏光にしか無いのか(H2替地)→A. p2参照
- Brewster角では反射がゼロなのに黒板に書いた図で反射が実線で書かれていたが?(H2三戸)→A. あまり芸の細かいことを考えずに図を書きました。また、s偏光の反射はゼロではありません。
- 吸収されているのに反射率が高いなんて、やっぱり矛盾しているようにしか思えない。(H2若田)→A. 吸収係数が高いと言うことと実際に吸収すると言うことは違います。例えば銀の場合、κが大きいので物質中にはd=λ/4πκ〜30Åの程度しか侵入できません。銀では可視光領域でn<<κですから、物質中の波長λ/2πnはdより長く、物質中に1波長の光が入って吸収されるに至らないのです。
- 光の反射率と電磁波のインピーダンス不整合による反射率の関連がわからない(H2稲垣)→A. p3参照
- 液晶で90゚ねじれ(TN)と270゚ねじれ(STN)とはどう違うか(H1中山, H2上田)→A. TNよりSTNは応答が早いと言われます。
- 液晶自体でほぼ完全に光を遮ることができるのか(H1勝田)→A. 最近の液晶パネルはかなりのコントラストを摂れるようです。
- 液晶になぜガラス板を使うのか(H1古賀)→A. 液晶のパネルには非常な平坦性が要求されます。また、数ミクロンの間隔を保って向かい合わせるにはたわみがあってはいけません。さらに、液晶ディスプレーは偏光を使っていますから複屈折が強く偏光を乱すプラスティックは使えません。
- 液晶はどうしてカラーにできるのか。(H1古賀, H2上田)→A. 赤緑青の3色のカラーフィルターを用いています。
- 液晶ディスプレーが目に良いという理由は(H1大和)→A. ブラウン管は走査線に沿って光のスポットが光ってディスプレーしますが、次のスポットが来る前には光が消えていなければならないのでちらつきがあります。液晶は、各画素に光スイッチがついているので、次の画面になるまでずっと光っています。それで安定した画面になります。
- 液晶の画面が変わる速度が遅いと言われているが、解決の方策はあるのか(H1Amar)→A. SSFLC(surface stabilized ferroelectric liquid crystal)という表面安定型強誘電性液晶を使いますと、普通の液晶より1桁程度高速になりますが、現在のはコントラストが低いのでまだ開発が必要です。
- 液晶プロジェクタの黒浮きは画素の隙間から光が漏れていることか。(H1勝田)→A. 液晶のコントラストは弱い光には対しては十分ですが、投影式のために強い光を入れると散乱による横方向への光漏れのため黒が浮きます。
- 液晶ディスプレーを店頭で見ると2・3点光っていないスポットがあるが品質基準は満たしているのか(H1杉田)→A. 画面のサイズが大きくなるとどうしても欠陥を減らすことが難しくなります。欠陥は値段との兼ね合いです。
- 偏光フィルムはなぜ引っ張ることによって偏光するのか(H2上田)→A. 引っ張りますとプラスティックの分子鎖が特定の方向に配向しているので、それに伴って屈折率や、吸収の選択則に異方性が生じるのです。
- 複屈折をもう一度説明して欲しい(H2木場)→A. 教科書p.86参照
- CDR, CDRW, PD, DVD-RAMの記録方式の違い、2層式DVDの再生の原理(H1稲倉)→A. CDRは色素を用いた記録方式で、光を吸収させて色素を破壊するのでwrite-onceです。色素が蒸発したときの反射率が高いのでCDROMとの互換性があります。しかし、色素を用いているのでレーザ波長との相性が問題になります。殆どのCDRドライブメーカは太陽誘電のCDRに特性を合わせています。CDRW, PD, DVD-RAMはすべて、rewritableですが、いずれも結晶とアモルファスの間の相変化を利用しています。アモルファスと結晶相との反射率の違い(アモルファス>結晶)を利用しています。しかし、アモルファス相の反射率がCDROMに比べ低いので、CD-RWとCD-ROMとの互換性がありません。DVDについては、低い反射率に対しても互換性を持つよう規格が定められていますから、DVD-RAMも同じ装置で再生できます。DVD-RAMは結晶化したときの結晶粒の形状が悪いのでノイズが大きいこと、融点以上に熱するため記録にかなりの熱が必要であること、このため、転送レートが低いこと、融解時に高速回転のため融体の移動が起き記録ピットのシフトがあること、繰り返し回数が3000回しか保障されないなど問題点があります。PDは3.5インチ規格のCDRWですが、MOディスクに押されて普及しませんでした。2層のDVDはレンズの焦点を動かすことで2層を別々に読めるようになっています。クロストークを防ぐためにいろいろ工夫がされています。
- CDとDVDのレーザの波長が異なるのはなぜか。(H2外山)→A. DVDは新しくできた規格なので、最近普及した波長の短いレーザを採用しているのです。(波長が短いほど記録密度を上げることができます。)
- CD, MDに外からの光が混ざるとどうなるか, またどんな光が使われているか(H2吉田)→A. 半導体レーザの光が集光されて使われています。外からの光は何桁も小さいので再生に何の影響もありません。
- レーザ光が棒状に見えるのはなぜか。(H1 中山) →A. 空気中のちりによる散乱で光路が明確に見えます。
- 3D映像の仕組み(H1坂井)→A. ゲーム機などの場合、立体的な物体を左、右の目で見たときに見えるはずの映像を交互に画面に映し、液晶メガネの左・右の液晶をこれに同期してスイッチしてやることにより、立体感のある画像にしています。立体テレビでは、左右わずかに位置の異なる2つのカメラで写した映像を左右の目で別々に見るようにします。映写機でスクリーンに映し出すときは直交する偏光の2つの映像を映しだし、偏光メガネで見ます。このほか、レンチキュラーレンズを用いたメガネなし立体テレビもありますが、見る位置が限定されるなどの問題があります。
- ブラックホールが光を吸収することは、光の公式で説明できるか(H2, Indyanto)→A. ブラックホールは、核燃焼を終えた恒星が重力崩壊しすべての物質が落下し凝縮して非常に大きな質量となり相対論の効果で光が放出できなくなる状態です。普通の光学の法則とは異なる物理現象です。
- 病院で携帯電話は使えないと言ったがナースコール用の無線電話などは問題ないのか(H1中山)→A. PHSやコードレスホンのような弱い電波なら医療機器に妨害を与えることはありません。
- 手で触ると明かりのつく電球の仕組みと近くで電磁調理器を使うと触らなくても点く理由(H2森岡)この質問は「光物性」に関係ありません。手で触ると「ピカチュー」となくオモチャと同じです。トランジスタのゲートの部分がオープン(または高抵抗で電源にプルアップ)になっていて、トランジスタが導通しているが、人が触ると人の抵抗(数KΩから数10MΩ)を通してアースされ、トランジスタがオフになり、ドレーンの電圧が、触る前より高くなります。この電圧を利用してフリップフロップをon状態にすれば、その後ずっと点っています。電磁調理器からは、交流の磁気信号が出ていますから、それがどこかの回路に飛び込み、誘導により電圧が発生しトランジスタがオフになるのではないかと思います。
斜め入射の反射の法則とブリュースター角:
図2において、入射面(入射光と法線を含む面)をxzとしたとき、この面に垂直な電界ベクトルの成分(y成分)をEsと垂直を意味するドイツ語senkrichtの頭文字のsをつけて表し、入射面内の成分をEpとp(parallel)をつけて表す。入射側には0をつけ、反射光には1、屈折光には2をつける。x成分、y成分をp成分、s成分を使って表すと
E0x=E0pcosψ0、E0y=E0s
E1x=-E1pcosψ0、E1y=E1s (1)
E2x=E2pcosψ2、E2y=E2s
電界のx成分、y成分の連続性より
(E0p-E1p)cosψ0=E2pcosψ2 (2a)
E0s+ E1s =E2s (2b)
一方、磁界のx成分、y成分についての連続の式
(H0p-H1p)cosψ0=H2pcosψ2 H0s+ H1s =H2s
をrotE=-μ0¶
H/¶
tから導かれるHs=(K/μ0ω)Ep、Hp=-(K/μ0ω)Esを用いて電界についての式に書き直すと、
K0(E0s-E1s)cosψ0=K2E2scosψ2 (2c)
K0(E0p+E1p)=K2E2p (2d)
が得られる。(2a)-(2d)の4式よりp偏光、s偏光に対する複素振幅反射率(フレネル係数)rp、rsを求めると、
rp=E1p/E0p=(K2cosψ0-K0cosψ2)/(K2cosψ0+K0cosψ2)
={K22cosψ0-K02(K22-K02sin2ψ0 )1/2}/{K22cosψ0+K02(K22-K02sin2ψ0 )1/2}
=tan(ψ0-ψ2)/tan(ψ0+ψ2)
rs=E1s/E0s=(K0cosψ0-K2cosψ2)/(K0cosψ0+K2cosψ2)
={K0cosψ0-(K22-K02sin2ψ0 )1/2}/{K0cosψ0+(K22-K02sin2ψ0 )1/2}
=-sin(ψ0-ψ2)/sin(ψ0+ψ2) (3)
となる。ここに、rp=|rp|Eiδp、rs=|rs|Eiδsである。上の各式を導くに当たり、
sinψ2/sinψ0=K0/K2
K0z=-K1z=K0cosψ0=(ω/c)ε11/2cosψ0
K2z=K2cosψ2=(K22-K2x2)1/2={(ω/c)2ε2-K0x2}1/2
= (K22-K12sin2ψ0 )1/2
=(ω/c)(ε2-ε1sin2ψ0 )1/2
の両式を用いた。
光強度についての反射率Rは|r|2で与えられ、
Rp=|tan(ψ0-ψ2)/tan(ψ0+ψ2)|2
Rs=|sin(ψ0-ψ2)/sin(ψ0+ψ2)|2 (4)
となる。上式において、もし、ψ0+ψ2=π/2であれば、tanが発散するため、|rp|は0となる。このとき、反射光はs偏光のみとなる。このような条件を満たす入射角をBrewster角という。
<垂直入射の場合>
特に、垂直入射の場合、ψ0=0、従ってψ1=0。このとき電界に対する複素振幅反射率rとして、
r=rp=(K2-K0)/(K2+K0)
を得る。(垂直入射の場合、入射光のp成分E0pの向きと反射光のp成分E1pの向きとは逆になっていることに注意)
この式に式K0=K1=(ω/c)ε11/2, K2=(ω/c)ε21/2を代入すると次式に示すようになる。
r=(ε21/2-ε11/2)/(ε21/2+ε11/2) (5)
媒質1は透明(屈折率1)、媒質2は吸収性(屈折率n,消光係数κ)とすると、
ε11/2=1,ε21/2=n+iκ
となるので,(5)式は
r=(n+iκ-1)/(n+iκ+1)
≡R1/2 eiθ (6)
と書ける。ここにR=|r|2は光強度の反射率、θは反射の際の位相のずれであって,次の2式のように表すことができる.
R={(n-1)2+κ2}/{(n+1)2+κ2} (7)
θ=tan-1{2κ/(n2+κ2−1)} (8)
以上から光が界面に垂直に入射したとき,反射光の強度は入射光のR倍となり,反射光の位相は入射光の位相からθだけ遅れることが導かれた。次節で述べるように位相は反射率のスペクトルからクラマースクローニヒの関係式を使って計算で求めることができる。
問題 媒体を高周波に対する分布定数回路であると考えて、垂直入射の場合の反射係数をインピーダンス整合の観点から導け
略解
垂直入射の反射の公式はインピーダンス整合の概念でも説明できる。
媒体を高周波に対する分布定数回路と考えると、電源側(真空)および負荷側(媒体)の特性インピーダンスは、それぞれ
Z0=(μ0/ε0) 1/2(真空)、Z1=(μ0/ε0εr)1/2(媒体)
で表される。このようなインピーダンスの不整合があるときの電圧の反射係数はr=(Z0-Z1)/(Z0+Z1)で与えられる。この式に上述のZ0、Z1を代入すると
r=(1−1/εr1/2)/(1+1/εr1/2)=(εr1/2−1)/(εr1/2+1)
={(n+iκ)-1}/{(n+iκ)+1}={(n-1)-iκ}/{(n+1)+iκ}
となり式(6)が導かれた。