電子物性工学U 期末テスト問題と標準解答1998.2.13
電子物性工学U 期末テスト標準解答 1998.2.13
(教科書、参考書どちらか1冊、およびA4のレポートを見てよい。電卓使用も可。)
問1 図1は、典型的な半導体の電子濃度の温度依存性を表すグラフである。このグラフについて次の問に答えよ。[計20点]
図1 半導体の電子密度の温度依存
- この図ではキャリア濃度nの対数を絶対温度Tの逆数に対してプロットしてある。このようなプロットの仕方を何プロットと呼ぶ
か。またこのプロットの利点は何か。
- この図から、半導体のキャリア濃度の温度依存性には3つの領域があることがわかる。高温領域(1/Tの小さな領域)と低温領域(1/T
の大きな領域)で傾斜が異なるのはなぜか。
- 一般に物質の導電率σをキャリア密度n、移動度μを使って表すとどのような式で書けるか。
- 半導体と金属とでは導電率の温度依存性はどのように異なるかを説明せよ。
問2 図2は、さまざまな半導体の光吸収係数αの対数を光子エネルギーに対してプロットしたスペクトルである。この図に関連して次の問に答えよ。[計20点]
図2 種々の半導体の光吸収スペクトル
- この図の横軸は光子エネルギーEである。光子エネルギーEと波長λの関係式を記せ。
- いずれの半導体においても、ある値(光学吸収端)より高いエネルギーを持った光子に対し吸収が増加している。このことを半導体のエネルギー帯の考え方で説明せよ。
- 図をみると、GaAsの吸収の立ち上がりはSiに比べて急である。このちがいがどのような電子構造の違いから生じているのかについて説明せよ。
- GaP結晶の吸収の立ち上がりは2.2 eVにある。この結晶の透過光は何色に見えるかを
説明せよ。
問3 発光に関する次の問に答えよ。[計20点]
図3太陽光(上)と蛍光灯(下)のスペクトル
- 図3は太陽光と蛍光ランプのスペクトルである。太陽光のスペクトルは全波長領域になめらかに分布する曲線であるのに対し、蛍光ランプのスペクトルは鋭い輝線スペクトルである。両者のスペクトルは全く違うのに、人間の目にはどちらも白く見えるのはなぜか
- 蛍光ランプの発光の過程はフォトルミネセンスである。蛍光管中の放電から発光までのメカニズムについて簡単に述べよ。
- 家庭の蛍光灯器具プルスイッチ(ひもで引っ張るスイッチ)の先には夜中でもうっすらと光るつまみがついている。これは燐光と呼ばれる現象を利用している。「蛍光」と「燐光」の違いは何か。
- 物質が励起状態から基底状態に緩和する際に光を放出する場合を放射再結合、光らない場合を非
放射再結合という。非放射再結合の場合、励起状態のエネルギーはどうなるのか
問4 磁性体に関する問題 [計30点]
図4 磁気ヒステリシス曲線
- 図4は、強磁性体の磁気ヒステリシス曲線である。図中のMs、Mr、Hcはそれぞれ何と呼ばれているか。
- 強磁性体において、初磁化状態から磁界を増加して行き、図4のMsの状態になるまでの過程を「磁区」の概念を使って説明せよ。
- 強磁性体には、軟質磁性体と硬質磁性体および半硬質磁性体がある。磁気記録において、記録媒体と磁気ヘッドではそれぞれどの磁性体が使われるのか。その理由は何か。
- 光磁気ディスク(MOディスクおよびMD)ではなぜ光を使って磁気記録できるのか、光磁気ディスクではなぜ光を用いて磁気記録した内容が読めるのか説明せよ。
問5 超伝導についての質問 [計30点]
- BCS理論では、超伝導をもたらす粒子のことを何と呼んでいるか。この粒子は電子とどのような違いがあるかについて説明せよ。
- 液体ヘリウムと液体窒素の沸点の温度を絶対温度K(ケルビン)単位で答えよ。
- 第1種超伝導体と第2種超伝導体の違いについて知るところを述べよ。
- 2つの超伝導体で薄い絶縁体をはさんで作ったジョセフソン接合に磁界を加えたときの効果について述べよ。
問6 「電子物性工学U」においては、身近な電子機器などに電子物性が応用されていることに興味を持っていただくよう考えて講義しました。感想や印象に残ったことがあれば、書いてください
電子物性工学U 期末試験 標準解答
問1
- プロットの名称:アレニウスプロット;プロットの利点:結成型の温度変化が直線で表現でき、傾斜から活性化エネルギーが、縦軸との切片から係数がわかる。
- 高温領域と低温領域の傾斜の違いの理由:低温領域の傾斜は不純物準位からバンドへの活性化を表し、高温領域の傾斜はバンド間遷移の活性化を表している。
- 導電率の式:σ=neμ
- 半導体と金属の導電率の温度依存性の違い:移動度の温度変化は金属・半導体で大きな違いはないが、キャリア密度の温度変化が異なる。キャリア密度は、金属ではほとんど温度変化しないが、半導体では活性型で大きく変わる。この結果、金属では高温ほど導電率が低下するのに対し、半導体では出払い領域を除いて、高温ほど導電率が高くなる。
問2
- Eとλの関係式:E(eV)=1240/λ(nm)
- 光学吸収端以上で吸収が増加する理由:光のエネルギーがバンドギャップより大きくなると初めて価電子帯から伝導帯への光学遷移が始まり光が吸収されるからである。
- GaAsとSiの吸収の立ち上がりが違う理由:GaAsの光学吸収端は直接遷移型であるのに対し、Siは間接遷移型である。直接遷移型半導体では価電子帯の頂きと伝導帯の底の波数kが等しいので光学遷移の際に運動量の保存則が成り立つので強い遷移が起きるが、間接遷移型半導体では価電子帯の頂と伝導帯の底の波数が異なるのでフォノン(格子振動の量子)から差の運動量を貰って遷移するため遷移強度が弱い。
- GaPの色とその説明:GaPの吸収端は緑の波長付近にあり、緑より短い波長の光を吸収してしまう。従って透過光の成分は赤、橙、黄なので、薄い資料ではオレンジ色に、厚い試料では赤色に見える。
問3
- 太陽光と蛍光灯でスペクトルが違っても白色に見える理由:人間の目には、赤、緑、青に感じる3種類の視細胞があり、それぞれ幅広い波長領域をカバーしている。この3つの視細胞に対する刺激強度さえ等しければ、スペクトルが異なっても同じ色に見える。
- 蛍光ランプの発光の過程:放電によって気体分子から放出された紫外線が蛍光管の裏に塗布された蛍光体の電子を励起しそれが基底状態に戻るときに発光する。
- 蛍光と燐光の違い:フォトルミネセンスのうち励起状態から基底状態に緩和するときの時間が短いものを蛍光fluorescence、長いものを燐光phosphorescenceと呼んでいる。
- 非放射再結合のエネルギーのゆくえ:最後は格子振動を通して熱になる。
問4
- Ms 飽和磁化、Mr 残留磁化、Hc 保磁力
- 磁化過程の磁区による説明:初磁化状態では、静磁エネルギーを下げるため磁区に分かれ、全体としての磁化を打ち消しているが、外部磁界を印加するとはじめに磁壁移動が起きて磁界方向に近い磁化成分をもつ磁区が広がり、ついで、磁区内での磁化回転が起きて、最後に全体が単一磁区になる。これが飽和磁化状態である。
- 磁気ヘッドと記録媒体に使われる磁性体の種類と使う理由
- 磁気ヘッド:軟質磁性体、記録の際電流に比例したひずみのない磁界を作ることができ、再生の際に媒体からの弱い磁界を受けて十分大きな磁束密度を得るため、Hcが小さく初透磁率が高い軟質磁性体が使われる。
- 記録媒体:半硬質磁性体、残留磁化を用いて記録するため、保磁力が適当な大きさをもち、残留磁化が大きな半硬質磁性体が用いられる。
- 光磁気記録の記録再生過程:
- 記録過程 キュリー温度記録:半導体レーザからでたレーザビームをレンズで0.8μm程度の小さなスポットに集光して記録媒体(アモルファス希土類遷移金属合金薄膜など)に照射しキュリー温度以上に加熱、いったん磁化を失わせる。このビームが媒体の回転によって別の位置に移ると、加熱されたスポットの温度が低下する。この時に外部磁界があるとその方向に磁気記録される。
- 再生過程 磁気光学効果:直線偏光が磁性体で反射されるとき磁気光学効果を受けて回転する。磁化の向きによって回転方向が異なるので、検光子や偏光ビームスプリッタを用いることによって、偏光回転を光の強度の強弱に変換して、光検出器(フォトダイオードなど)で電気信号に変え読み出す。
問5
- 超伝導を担う粒子の名前:クーパー対; 電子との違い:電子はフェルミ粒子であるが、クーパー対は互いに異なるスピンと運動量をもつ電子の対からなるボース粒子なのでボース凝縮が起き、巨視的な量子状態が起きている。
- 液体ヘリウムの沸点:4.2K、液体窒素の沸点:77K
- 第1種超伝導体:臨界磁界以下で完全反磁性。臨界磁界以上の磁束が侵入すると常伝導になる。第2種超伝導体:第一(下部)臨界磁界Hc1と第二(上部)臨界磁界Hc2の2つの臨界磁界をもち、 Hc1とHc2のあいだでは、磁束量子(渦糸状態)として磁束が侵入出来る。
- ジョセフソン接合における磁界の効果:磁界によって2つの接合している2つの超伝導体の位相が変化するため、ジョセフソン臨界電流が、磁界に対して光の干渉縞のようなフラウンホーファーパターンを示す。
採点結果
問題1 正答率13.7/20=68.5%
問題2 正答率11.2/20=56%
問題3 正答率10.2/20=50.1%
問題4 正答率25.9/30=86.3%
問題5 正答率22.3/30=74.3%