CRDS Process Informatics Team

2021.06.26 update

佐藤は、2020年度、JST研究開発戦略センター(CRDS)において、プロセスインフォマティクスのメンバーとして協力した。このページは、本グループの活動の一端の記録である。

戦略プロポーザルワークショップフォローアップチームメンバー

戦略プロポーザル

(戦略プロポーザル)材料創製技術を革新するプロセス科学基盤
~プロセスインフォマティクス~

エグゼクティブサマリー

 「材料創製技術を革新するプロセス科学基盤 〜プロセス・インフォマティクス〜」とは、目的材料の合成プロセスを効率的かつ統合的に探索する技術基盤を確立するための研究開発戦略である。ここでは、プロセス・インフォマティクスを「従来からの実験科学、理論科学、計算科学と、近年の進展が著しいデータ科学を、統合的・融合的に活用することにより、目的材料の合成プロセスを効率的かつ統合的に探索する方法」と定義する。
プロセス・インフォマティクスを、所望の機能を有する物質・材料を効率的に探索するマテリアルズ・インフォマティクス、プロセスの内部状態や生成物をリアルタイムに観測する計測インフォマティクスと組み合わせることで、物質・材料創製技術を次ステージに進化させることができる。また、データ科学活用による熟練者の経験知(勘・コツ)の取り込みや、物理化学的解析およびデータ科学的解析との組み合わせによって、各論的・局所的な議論に落ち込みがちであった合成プロセスに対する考え方を刷新し、汎用性の高いプロセス科学基盤へと拡充することをめざす。
現在、ありとあらゆる場面で“材料”への期待が高まっている。 SDGsの達成、カーボンニュートラル社会の構築、資源・物質循環の実現、わが国が目指すSociety 5.0社会の実現や、新型コロナウイルス感染症の猛威によって加速されるデジタル化の流れ、いずれにおいても、新たな材料の創出が決定的に重要となっている。
マテリアルズ・インフォマティクスが新材料開発において強力なツールとなることがさまざまな例で実証されてきているが、そこでは候補となる新材料の組成・構造が予測されているものの、その材料が「実際に作れるのか」、「どう作るのか」まで示された例は少ない。
材料合成プロセスは、材料ごとに手法のバリエーションが多く、それを制御するパラメータも複雑であるため、統一的に扱うことは難しい。このため、個別プロセスの改良・最適化が主となり、最適なプロセスを科学的に探索するアプローチはとられてこなかった。しかし、近年のさまざまな要素技術の進化(データ科学の進展、シミュレーション技術の高度化、プロセスをリアルタイムに観測するオペランド計測技術の開発、ハイスループット実験技術の確立など)や進展著しいデータ科学の活用も期待され、また2021年3月から本格運用が始まったスーパーコンピュータ「富岳」が利用可能になったこともあり、材料合成プロセスを効率的かつ統合的に探索するプロセス・インフォマティクスに取り組むための環境が整いつつある。
本提言において取り組むべき研究開発課題としては、 1 各材料領域におけるプロセス・インフォマティクス手法の構築、 2 プロセス・インフォマティクス共通基盤構築、 3 プロセス科学基盤の拡充を可能にする新たな指針やコンセプトの創出があげられる。

(1) 各材料領域におけるプロセス・インフォマティクス手法の構築
ここでは、有機材料、無機材料、複合構造材料などそれぞれの領域から中核になるプロセスを選び、そこから材料領域ごとにプロセス・インフォマティクス手法を展開していく。
有機材料系合成プロセスでは、マイクロフロー化学での有機合成プロセスが候補例としてあげられる。計算科学やデータ科学を活用した合成経路探索手法と、マイクロフロー化学のような理想系に近い反応空間での合成実験を組み合わせることで、目的化合物の合成経路を効率的に確立するための研究開発を行う。
無機材料系合成プロセスでは、結晶成長プロセスが候補例としてあげられる。精緻なシミュレーションが可能であるが、計算に長時間を要するため現状ではプロセスの設計には使いにくい。実測可能なデータを使った機械学習モデルを構築することより、プロセス状態の高速な予測を可能にし、プロセス設計に活かすための研究開発を行う。
複合構造材料の合成プロセスは、材料自体とその合成プロセスの両面で複雑な材料であり、必要なパラメータ数が非常に多い。機械学習の分野でオートエンコーダーとして知られる次元削減操作において、中間データとして物理的に意味のある値を用いるなどの新たな手法によって複雑なプロセス全体の最適化をするための研究開発を行う。
(2) プロセス・インフォマティクス共通基盤構築
個々のプロセスの要求にこたえるだけでなく、プロセス・インフォマティクス全体を加速する基盤的研究が必要である。そのためには、プロセスのパラメータ空間が広大であることや、多段階プロセスにおいて前後のプロセスへの影響があるような材料合成プロセスの特徴に対処できる、プロセス・インフォマティクスに適した機械学習アルゴリズムの開発が必要になる。
また、材料合成プロセスのシミュレーション・モデリングにはa)実験データに基づく経験パラメータを用いたモデリングや、b)第一原理計算および分子動力学によるシミュレーションがあるが、それらをつなぐ手法であるマルチフィジックス・シミュレーションも重要である。これらの手法を用いて第一原理計算と統計熱力学を融合することにより、各パラメータの寄与を解析可能なモデルを構築する研究も重要である。さらに、実験データの収集方法、ハイスループット実験手法 、ロボットの単位操作の共通化・標準化も重要な課題である。
(3) プロセス科学基盤拡充
データ科学によってプロセス特性を適切に表す記述子を設計することにより、各論的な取り扱いであったプロセスを新たなカテゴリーに分類して議論することができるようになると考えられる。これにより、個々のプロセス解析では理解できなかった、プロセスを制御する重要な共通因子の把握が可能になり、従来は活用が難しかった複数のプロセス間でそれぞれの知見・データなどを活用できるようになる可能性がある。このようなアプローチにより、各論的・局所的であった合成プロセスの議論を刷新し、プロセス科学の基盤拡充につなげる。

上記で述べた研究開発課題を推進していくために、対象プロセスごとにプロセスセンターを設置し、そこに合成プロセス装置、評価・計測装置などを整備することが望ましい。プロセス・インフォマティクス共通基盤は、理論科学、計算科学、データ科学、プロセス技術、計測技術など多岐に渡る専門家の参画が必要であるが、別々の場所で活動するバーチャル拠点であっても機能させることができる。
ただし、プロジェクトごとの一時的な連携でなく、強力な連携を継続する拠点として設置する必要がある。その上で、プロセス科学基盤拡充には、各プロセスセンターと、共通基盤の拠点を強く連携させることが求められる。また、それぞれの研究開発課題の成果を活かし相乗的に進展させるために、全体を束ねる仕組み(ガバニングボードなど)が必要である。
人材育成としては、材料研究者とデータ科学者の知識・経験を融合させることが大切になる。産業界が参画する仕組みの整備、データ取扱ルールの設定なども重要な課題である。

ワークショップ「材料創製技術を革新するプロセス・インフォマティクス」開催

  • 日時:が2021年1月24日 9:30~17:00
  • 場所:オンライン会議(Zoom)にて開催
  • 開催趣旨
  • ワークショッププログラム プログラム
     
    司会 福井弘行(JST-CRDS)
    開会挨拶 曽根純一(JST-CRDS)
    ワークショップの趣旨説明 福井弘行(JST-CRDS)
    話題提供1 個別プロセスにおけるインフォマティクス活用研究
    結晶成長デジタルツインに向けた取り組み(SiC 溶液成長を中心に)宇治原徹(名大)
    ロボット-機械学習による全自動・自律的な無機機能性薄膜合成の現状と展望清水亮太(東工大)
    精密有機合成とプロセス・インフォマティクス甲村長利(産総研)
    粉体プロセス開発のハイスループット化のためのプロセス・インフォマティクスと、材料探索ハイスループット化との関係長藤圭介(東大)
    データ駆動型高分子材料開発とプロセス・インフォマティクス内藤昌信(NIMS)
    話題提供2 プロセス・インフォマティクスに必要な技術群
    プロセス・インフォマティクスにおける技術紹介および課題と将来展望金子弘昌(明大)
    窒化物半導体MOVPE プロセスのマルチフィジックス結晶成長シミュレーション寒川義裕(九大)
    触媒インフォマティクスの実践に見るプロセスの重要谷池俊明(JAIST)
    計測インフォマティクスを目的とした計測スペクトルのスパースモデリングの自動化吉川英樹(NIMS)
    総合討論 
    ファシリテーター伊藤 聡(JST-CRDS)
    コメンテーター畑中美穂(慶大)、水野洋(パナソニック)、冨谷茂隆(ソニー)、右田啓哉(日本触媒)、柳 日馨(阪府大)
  • ワークショップ報告書

    (ワークショップ報告書)
    科学技術未来戦略ワークショップ「材料創製技術を革新するプロセス・インフォマティクス」CRDS-FY2020-WR-12

    エグゼクティブサマリー
     本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が令和3年 1月24日に開催した科学技術未来戦略俯瞰ワークショップ「材料創製技術を革新するプロセス・インフォマティクスの俯瞰」に関するものである。
    昨今のエネルギー・環境問題解決に向けた新たな材料開発や、COVID-19によって加速されるデジタル化の潮流を担う新たなハードウェアを実現する材料など、材料技術への要求はますます高度になっている。さらにはトレードオフの関係にあるような機能を同時に、かつ低コスト、低環境負荷で実現することが求められている。
    このような材料への高度な要求に応えるために、従来の日本が得意としてきた技術蓄積を基礎にした材料開発手法に加え、高度なシミュレーション技術やデータ科学などコンピューターを用いた新たな材料設計手法であるマテリアル・インフォマティクスが活用され、すでにさまざまな成果が生み出されている。しかし、設計・予測された物質・材料を合成・作製する具体的な手法がわからず、実証できていない場合も散見されている。したがって、設計・予測された材料をどう合成・作製するのかという課題を解決する必要がある。
    材料の合成プロセスは、材料ごとに手法が異なり、またプロセスを制御するパラメータも非常に多く、データ科学的にアプローチするのは一見困難に思えるが、最近進展してきているシミュレーション技術、リアルタイム・プロセス計測技術、ロボット技術なども活用することで、材料合成プロセスの世界へデータ科学的側面から足を踏み込む環境が整ってきていると言えよう。
    CRDSでは、今後の物質・材料開発では、4つの科学(実験科学、理論科学、計算科学、データ科学)を融合的・統合的に活用して、目的材料の合成プロセスを効率的に探索する手法であるプロセス・インフォマティクスが必須になると考え、プロセス・インフォマティクスの共通基盤研究と個別プロセスのインフォマティクス活用研究の両方を実施することで、材料創製研究におけるプロセス・インフォマティクスの実施体制を構築することができるという仮説を提示した。
    本ワークショップでは、まず、個別プロセスにおけるインフォマティクスの活用事例として、無機結晶(バルク・薄膜)、有機合成、機能性高分子、粉体プロセス、それぞれについて、現状と課題・将来展望について話題提供いただいた。高速処理可能な高精度モデリング技術により最適なプロセス条件を探索する例や、自律的最適化(Closed-Loop)により広範囲のパラメータ最適化を図る例、また、機械学習による自律的システムに人が積極的に関与する例、多数のプロセスパラメータの次元削減の際に物理的に意味のあるデータを中間データに使う例などの紹介があった。また、最適化モデルの構築に失敗したケースでは、プロセスパラメータ設定値と実測値とのずれが原因であり、データの正確さ・信頼性を担保する仕組みが重要であることが指摘された。
    また、プロセス・インフォマティクスに必要な技術群として、データ科学、シミュレーション・モデリング技術、ハイスループット実験手法、先端計測技術などについて、プロセスに関連する最新の研究開発状況、課題・将来展望について話題提供をいただいた。マルチフィジックス・シミュレーションによりプロセス内で起きている現象を丸ごと把握する例、ハイスループット実験により材料特性とプロセス条件を同時に最適化する例、リアルタイム性と信頼性を両立させたモデリング自動化ワークフローの例などの紹介があった。斉一なデータを集めることやシミュレーション活用の重要性、データフォーマット統一、サンプル搬送手段共通化など共通基盤として要求される事項について把握することができた。また、プロセス・インフォマティクスの高度活用のためには、プロセスの抽象化がカギであることが提言され、重要な示唆となった。
    その上で、全体で総合討論を行い、以下のような重要な視点を得ることができた。
  • 日本の強みであるプロセス技術をさらに発展・強化するには、研究者の勘・コツを生かす仕組みを推進するべきである。その一つにはプロセスのデジタル化を推進し、共通基盤化していくことが挙げられる。
  • 産業界で量産プロセスを構築するには合成プロセスの根本的なメカニズムが明らかになっていることが必要である。
  • アカデミアは、合成プロセスの本質的な理解を目指す研究を行うことが必要である。そのうえで、アカデミアでの基礎研究、企業での実用化研究をシームレスに実施していくことが望まれる。
  • プロセス全体をシミュレーションしうるデジタルツイン構築が重要である。そのためには、有機合成・触媒反応では化学反応の素過程の本質的理解が必須である一方、無機結晶成長ではプロセス全体のマルチフィジックスのシミュレーションが重要課題である。
  • プロセス・インフォマティクスの確立・普及には、研究者の意識の変革が重要である。そのためには、データ科学を用いたプロセス技術の分かりやすい成功例を、有機材料、無機材料、複合材料でそれぞれの分野で作ることが大切である。
  • プロセスにデータ科学を活用するには、まずデータを集めることが必要である。一定の条件で実施された結果でなくても、実験条件等のデータを付加情報として収集・蓄積することが、データ活用では重要である。また、基板ホルダーの共通化、前処理やデータ登録の自動化などによりデータ収集の効率化を推進することで、機械学習モデルを構築する上で重要な、予想・仮説とは異なるネガティブデータも自然に集まってくるようになることが期待される。
  • 材料研究者が機械学習を理解して材料研究者の視点でテーマ設定をする、あるいは、データ科学の研究者に材料の基礎知識・感覚を身につけさせるなど、双方向の融合が必要であり、とくに、両方の視点を持った若手人材の育成が重要である。
  •  CRDSでは、本ワークショップでの議論を踏まえ、今後、国として重点的に推進すべき研究領域、具体的 な研究開発課題を検討し、研究開発の推進方法を含めて、戦略プロポーザルを策定し、関係府省や関連する 産業界・学会等へ提案する予定である。
    > これを受けて10名の発表者に話題提供いただいた。新たな機能を有する材料の検討・設 計方法として、3件、合成、計測、設計をハイスループットで回す手法、多様な安定相を 活用した熱電変換材料、価数制御、マテリアルインフォマティクスについて。応用からの 期待として2件、化合物太陽電池と磁性材料。そしてのぞみの安定相を実現するための計 測技術とプロセス制御技術として4件、オペランド計測、半導体の結晶相の制御、プロセ ス・インフォマティクス活用、そしてハイエントロピー・ナノ合金である。
    これらの個々の話題提供を受けて、総合討論にて、要求された機能の実現のための新た な安定相を探索する手法の指針を議論した。
     一つ目は、機能材料横断の軸は何か見いだせないかとの観点である。ひとつはマテリアル ズ・インフォマティクスなどのデータ科学の活用が共通軸であり、また、外場やナノサイ ズ効果を含めた結晶構造も共通軸ではないかとの議論があった。
     二つ目は、新たな安定相を実現するプロセスを議論した。準安定な相や、ふだん安定 にできない相を意識した合成プロセスが大事であるという議論があった。安定な相の近 くにある準安定相を安定に取り出すための外場やプロセスを意識するということである。 これについては、実験で得た経験値、いわば山勘というようなものがかなり有効で、人 に経験値を蓄積することもポイントであるとの意見があった。この経験値がプロセス・ インフォマティクスを進める時必要な、最初の制約条件の決定に大切であるとの議論で あった。
     ワークショップでの議論を踏まえ、CRDSでは今後国として重点的に推進すべき研究領 域、具体的な研究開発課題を検討し、研究開発の推進方法を含めて戦略プロポーザルを 策定し、関係府省や関連する産業界・学会等へ提案する予定である。

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    種別年月日題名学会・学会誌等学協会備考
          
          

    メンバー

    役割氏名職名・称号所属
    チーム総括曽根純一上席フェローナノテクノロジー・材料ユニット
    リーダー福井弘行フェローナノテクノロジー・材料ユニット
    メンバー伊藤 聡特任フェローナノテクノロジー・材料ユニット
    酒部健一主任調査員JST戦略研究推進部
    佐藤勝昭特任フェローナノテクノロジー・材料ユニット
    竹内良昭フェロー環境・エネルギーユニット
    沼澤修平フェローナノテクノロジー・材料ユニット
    的場正憲フェローシステム・情報科学技術
    眞子隆士フェロー・ユニットリーダーナノテクノロジー・材料ユニット
    水元邦彦主任調査員JST研究プロジェクト推進部
    宮下 哲フェローナノテクノロジー・材料ユニット
          

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