CRDS high-entropy materials team

2020.10.07 update

佐藤は、2018年度、JST研究開発戦略センター(CRDS)において、ハイエントロピー材料チームのメンバーとして協力した。
このページは、本グループの活動の一端の記録である。

戦略プロポーザルワークショップフォローアップチームメンバー

戦略プロポーザル

(戦略プロポーザル)未来材料開拓イニシアチブ
~多様な安定相のエンジニアリング~

エグゼクティブサマリー

 「未来材料開拓イニシアチブ ~多様な安定相のエンジニアリング~」とは、材料創製の探索範囲をこれまで人類が扱ってこなかった未開拓の領域まで大きく拡大することで、高性能・高機能化、複数機能の共存、相反する機能の両立などの材料に対する高度化した要求に応えうる未来材料を創製するための研究開発戦略である。ここでは、材料の多元素化やハイエントロピー化、熱力学的に最安定な構造だけでなく準安定相などの多種多様な安定相の利用などを期待している。また、研究開発としては、未開拓の材料への探索範囲拡大とともに、新たな新規材料開発の指針となるように、構成元素、結合状態、エントロピーなどの役割の明確化や、作製プロセス中の現象の可視化による反応過程の理解、目的の安定相を得るための反応経路のダイナミックな制御、構造を安定化させるための手法の構築などを行う。

近年、CO2削減に向けた再生可能エネルギーの大量導入や高度なエネルギーマネージメント、快適なモビリティやIoT/AIなどの利用による高度な情報化社会を目指すSociety5.0の実現、製品の製造・使用過程における環境負荷の低減などの様々な社会的課題の解決に向けて、材料・デバイスの高性能化・高機能化に対する要求や期待がますます高まってきている。例えば、超軽量素材では高強度かつ高靭性、熱電材料では高電気伝導かつ低熱伝導、といった複数の機能の共存や相反する機能の両立などが、さらなる高性能化とともに要求されるようになってきている。これらの機能材料開発に対する高度な要求に対し、それぞれの応用分野における単純な元素構成、最安定相の利用など従来の材料探索範囲での新材料開発は困難になってきている。このため、未知の可能性を秘めている複雑な組成や多様な安定相など未開拓の材料へ対象を広げていくことが必要である。また、材料開発競争の激化から、新材料の探索から実際の材料作製に至る材料設計や作製プロセス設計も含めた開発期間の短縮も求められており、応用分野を越えた新材料創製の新たな指針の構築が必要になってきている。
一方、第一原理計算や、ビッグデータ解析、機械学習、ベイズ推定などのデータ科学を利用して効率的な材料設計を行うマテリアルズ・インフォマティクスや、同時に多様な組成の材料を作製するコンビナトリアル手法、ロボットなどの利用による効率的な実験(ハイスループット実験)が最近発展してきている。従来の実験手法では取り組みが困難だった未開拓の材料に対して、このような新たな研究手法を活用することで、目的の機能を有する組成・構造の選択や、それを安定な材料として実現する作製プロセスの構築を効率的に行うことも可能になると考えられる。このため、高度な機能要求に対して、新材料開発の範囲を未開拓の材料へと大きく広げ、そこでの材料創製に挑戦していくべきである。

今後取り組むべき研究開発課題としては、材料探索範囲の拡大、作製プロセス中の反応過程の可視化と反応経路の動的制御、プロセス制御手段の利用による目的安定相の実現があり、具体的には以下の研究開発を行っていく。
(1) 材料探索範囲の拡大
材料の基本的な特性・機能に大きな影響を与える構成元素、結合状態などの主要因子の役割、さらには複数の元素間の役割分担、添加元素の補完的役割などの明確化が必要である。このような各要素の役割を明確にするためには、理論計算やマテリアルズ・インフォマティクスの利用とともに、ハイスループット実験やデータ科学の活用が重要である。また、作製プロセス中における、原料、前駆体、添加元素、多元素化によるエントロピーの増大、歪みなどの反応経路に関わる役割の明確化も重要である。
これらで得られた各種のデータや機械学習などで分析した結果は、応用分野を越えて活用できるようにデータベース化して共有し、得られた結果を研究者が論理的に理解し、モデル化してシミュレーション等に利用できる形にするために、主要因子を抽出してその役割や効果を学理として体系化していくことが重要である。さらに、応用分野を横断して新たな安定相を探索・設計する新たな指針を構築していくことが望まれる。
(2) 作製プロセス中の反応過程の可視化と反応経路の動的制御
目的の安定相を自在に作製するには、反応生成物、雰囲気、相変化などをその場での観測・計測(オペランド計測)で可視化し状況を把握することが重要である。このようなオペランド計測を可能とするプロセス装置の開発、反応生成物や反応雰囲気を検出できるその場観測装置、安定相のダイナミックな変化をトレースできる測定技術の開発が必要である。また、オペランド計測での可視化が難しい部分については、反応の理論計算や、これまでに蓄積されたプロセス関連のデータから反応機構を推定して補完することが望まれる。
これらの技術および測定データを基に、様々な条件下での反応過程と安定相のダイナミックな変化を科学的に理解し、反応過程と安定相変化を統合して扱う新たな学理として整理していくことが重要である。さらに、反応過程の途中で他の安定相が優先的に出現する傾向が強い場合などでも、目的の安定相を得るための反応経路を探索し、精密な制御手法の開発を行う必要がある。
(3) プロセス制御手段の利用による目的安定相の実現
安定相の中には、熱平衡状態では他の安定相とのエネルギーバリアが低く、使用環境では不安定になるものも存在するため、目的の安定相をさらに安定化させる手法の構築も必要である。特定の結晶面を持つ結晶基板によりエピタキシャル成長の原子配列を強制的に揃えたり、高温・高圧の状態から急激に温度や圧力を下げたりするなど、このようなプロセス制御手段を活用して目的の安定相を実現することも重要である。

上記で述べた研究開発を推進していくためには、材料設計から作製プロセス設計(反応経路設計)、オペランド計測、特性評価、データ科学などの統合的な研究開発を行う必要がある。特に、応用分野を横串的に見て、新たな材料設計・プロセス設計の指針を得ることが重要であり、これを強く意識して全体をまとめるリーダーの下で、研究を推進していくことが望まれる。このような研究は、関係する研究機関に跨がるネットワーク的な体制でも可能であるが、計測装置や作製プロセス装置などの開発や、多様な分野に跨がる人材の育成、効率的な研究開発を行う観点では、研究拠点の構築が望まれる。大学や国研における様々な基礎分野の研究者に加え、応用分野の様々な課題を知る産業界の研究者・技術者も参加することで、学術的な研究と応用に向けた研究の両方を知る人材の育成が期待される。 未開拓の材料への探索範囲拡大や多様な安定相を動的制御して新機能材料を創製するという考え方は世界的に見てもまだ断片的な活動しかなく、我が国において早急にこの研究領域を立ち上げていくことが重要である。このためには、材料設計、プロセス設計、計測、データ科学などに跨がる新たなコミュニティの形成とともに、この研究開発を加速する施策の早期実施が必要である。

ワークショップ「多様な安定相からの高機能材料創製」開催

  • 日時:2018.12.16, 10:00-17:00
  • 場所:JST東京本部別館2F会議室A
  • 開催趣旨
  • ワークショッププログラム プログラム
     
    開会挨拶・趣旨説明  曽根 純一、小名木伸晃 (JST-CRDS)
    話題提供1  新たな機能を有する材料の検討、設計方法
    高機能特性相を高効率に探索する方法の開拓 一杉 太郎(東工大)
    多様な安定相を活用した熱電変換材料の開発森 孝雄(NIMS)
    価数制御と材料設計島川 祐一(京大)
    マテリアルズ・インフォマティクスでできること伊藤 聡(NIMS)
    話題提供2 応用からの期待
    化合物太陽電池の高効率化と材料設計反保 衆志(産総研)
    磁性材料における相反する機能の両立杉本 諭(東北大)
    話題提供3 望みの安定相を実現するための計測技術とプロセス制御技術

    プロセス中のその場計測技術大和田 謙二(量研機構)
    半導体における結晶相の制御 藤田 静雄(京大)
    プロセスインフォマティクスの活用 寒川 義裕(九大)
    ハイエントロピー・ナノ合金の創製と
    作製プロセス技術の確立を目指して
    北川 宏(京大)

    総合討論 ファシリテーター 佐藤 勝昭(JST-CRDS)

  • ワークショップ報告書

    (ワークショップ報告書)
    科学技術未来戦略ワークショップ「多様な安定相からの高機能材料の創製」CRDS-FY2018-WR-11

    エグゼクティブサマリー
     本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が 平成30年12月16日に開催した科学技術未来戦略ワークショップ「多様な安定相から の高機能材料創製」に関するものである。
     再生可能エネルギーの大量導入、快適なモビリティ、IoT推進、環境負荷低減などの様々 な社会ニーズに対し、従来よりも高機能、あるいは従来にない新たな機能を発現する材料 が求められている。例えば、高強度かつ高靭性、高電気伝導かつ低熱伝導、といった複数 の機能、相反する機能の両立なども要求されている。これらの要求に対し、これまでに知 られている単純な組成や結晶構造を持つ材料だけでは十分に満足することができず、元素 の新たな組み合わせや多様な結晶構造の利用などにより、所望の機能・特性を実現する材 料を創製しようとする流れが多くの応用分野において顕著になっている。このような材料 系では多様な安定相が数多く出現するため、目的の相を得るためには精密な材料設計と作 製プロセス制御が必要となる。現在は応用分野別に材料探索および作製プロセス最適化が 行われており、応用分野を跨ぐ共通のガイディングプリンシプルやコンセプトがなく、情 報共有も希薄な状態である。一方で、最近はマテリアルズ・インフォマティクスやハイス ループット合成などの新しい研究手法の発展により、多様な安定相から所望の機能を有す る特定相を効率的に探索しようとの試みも始まっている。応用分野を超えて、特定相を探 索・設計する手法の構築、特定相を実現する反応過程の設計、作製プロセスの精密制御が 可能になれば、従来を凌駕する高機能な特性、あるいは新機能の材料創製に道が開かれる ものと期待される。
     以上の問題意識から、本ワークショップでは、応用分野を横断する新機能・高機能な 新規材料創製のために、多様な安定相からの高機能特性相の抽出を行う材料設計に関する 研究開発、反応過程の把握と作製プロセスの精密制御に関する研究開発、これらを効率的 に行うために必要な研究開発体制などについて検討した。
     冒頭にCRDSより、複雑な材料では多様で多数な相が出現し、有用なものが多いと予想 されること。ここから高機能材料が生み出せるのではないかという仮説を提示した。複雑 な材料から有用な材料を見出し、作製するためにハイスループット合成、オペランド計測、 マテリアルズ・インフォマティクス、そしてプロセス条件も考慮したプロセス・インフォ マティクス、新規合成手法を組み合わせることで新たな材料を見出していくという考えで ある。
    これを受けて10名の発表者に話題提供いただいた。新たな機能を有する材料の検討・設 計方法として、3件、合成、計測、設計をハイスループットで回す手法、多様な安定相を 活用した熱電変換材料、価数制御、マテリアルインフォマティクスについて。応用からの 期待として2件、化合物太陽電池と磁性材料。そしてのぞみの安定相を実現するための計 測技術とプロセス制御技術として4件、オペランド計測、半導体の結晶相の制御、プロセ ス・インフォマティクス活用、そしてハイエントロピー・ナノ合金である。
    これらの個々の話題提供を受けて、総合討論にて、要求された機能の実現のための新た な安定相を探索する手法の指針を議論した。
     一つ目は、機能材料横断の軸は何か見いだせないかとの観点である。ひとつはマテリアル ズ・インフォマティクスなどのデータ科学の活用が共通軸であり、また、外場やナノサイ ズ効果を含めた結晶構造も共通軸ではないかとの議論があった。
     二つ目は、新たな安定相を実現するプロセスを議論した。準安定な相や、ふだん安定 にできない相を意識した合成プロセスが大事であるという議論があった。安定な相の近 くにある準安定相を安定に取り出すための外場やプロセスを意識するということである。 これについては、実験で得た経験値、いわば山勘というようなものがかなり有効で、人 に経験値を蓄積することもポイントであるとの意見があった。この経験値がプロセス・ インフォマティクスを進める時必要な、最初の制約条件の決定に大切であるとの議論で あった。
     ワークショップでの議論を踏まえ、CRDSでは今後国として重点的に推進すべき研究領 域、具体的な研究開発課題を検討し、研究開発の推進方法を含めて戦略プロポーザルを 策定し、関係府省や関連する産業界・学会等へ提案する予定である。

    フォローアップ

    種別年月日題名学会・学会誌等学協会備考
    報告2020.10.01トピックス編集委員・外部記者が見た初のオンライン講演会
    「シンポジウム 多様な安定相のエンジニアリングの新展開」
    応用物理学会誌89[11]624(2020)応用物理学会佐藤勝昭寄稿
    シンポジウム2020.10.08"Future Materials Exploring Initiative-Engineering for Diverse Stable Phases-" EMS39 (The 39th Electronic Material Symposium)電子材料シンポジウムK.Sato Introductory Talk
    シンポジウム2020.09.08「多様な安定相のエンジニアリングの新展開」
    ~環境・エネルギーデバイスと材料の未来~
    第81回応用物理学会秋季学術講演会応用物理学会佐藤勝昭 はじめに
    シンポジウム2020.03.12講演は中止されました多様な安定相のエンジニアリングによる多元系材料開発の新展開
    - 未来材料開拓イニシアチブ ~環境・エネルギー材料の未来 ~
    第67回応用物理学会春季学術講演会応用物理学会
    寄稿2019.11.01会員の広場「未来材料開拓イニシアチブ~多様な結晶相のエンジニアリング~」Crystal Letters No.72 pp.33-36(2019)応用物理学会結晶工学分科会馬場寿夫他
    連絡責任者:佐藤勝昭
    シンポジウム2019.10.30多様な結晶相の結晶成長技術と応用第48回結晶成長国内会議(JCCG48)日本結晶成長学会佐藤勝昭 シンポジウム開催にあたって

    メンバー

  • チーム総括:曽根純一 (ナノテクノロジー・材料ユニット上席フェロー)
  • リーダー:小名木伸晃 (ナノテクノロジー・材料ユニットフェロー)
  • メンバー:小林 恵  (JSTプログラム戦略推進室 主査)
          杉浦晃一  (JST未来創造研究開発推進部 調査員)
          佐藤勝昭  (ナノテクノロジー・材料ユニット 特任フェロー)監
          永野智己  (ナノテクノロジー・材料ユニット フェロー、統括ユニットリーダー、JST研究監)
          丹羽 洋  (JST産学連携展開部 技術移転プランナー)
          馬場寿夫  (ナノテクノロジー・材料ユニット フェロー)
          宮下 哲  (ナノテクノロジー・材料ユニット フェロー・ユニットリーダー)
          八木岡しおり (海外動向ユニット フェロー)

  • 勤務先リンク
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