CRDS Electricity-Material Energy Conversion Team

2023.08.22 update

佐藤は、2021-2022年度、JST研究開発戦略センター(CRDS)において電気的物質変換チームのメンバーを努めた。 このページは、本グループの活動の一端の記録である。
戦略プロポーザルワークショップ チームメンバー

戦略プロポーザル

  • 2023.03 戦略プロポーザル 電気 - 物質エネルギー変換技術の革新~再生可能エネルギーの大量導入に向けた多様な反応場の実現~/CRDS-FY2022=SP-07(pdf)
    エグゼクティブサマリー

    本提言は、電気-物質エネルギー変換技術(物質との相互変換を利用して電気エネルギーを生成、変換、貯蔵する技術)の高度化・多様化を通じて、再生可能エネルギーの時間変動性や適地の局在性に伴う需給ギャップを解決し、再生可能エネルギーの有効利用を可能にする研究開発戦略である。再生可能エネルギーの大量導入にあたっては、蓄電池、燃料電池、電解といった電気-物質エネルギー変換を利用したデバイスの大量導入も必要となる。本提言では、反応基質、電子・イオンといった電荷担体(キャリア)、電極材料、電解質材料といった構成要素だけでなく、デバイスの作動パラメーターである温度、pH、電圧といった反応環境変数を含め、デバイス特性を司る制御因子を広く“電気-物質エネルギー変換反応場”と定義する。そして、エネルギー効率・反応速度の観点から、より理想的な反応環境やエネルギーインフラとしてより広範な作動環境を実現する材料・デバイス開発の方向性を提言する。特に、反応場のデバイス横断的な理解に取り組み、デバイス特性の制御因子の知的基盤を構築することで、わが国が強みを持つ電気化学デバイス材料の新規シーズ創出やデバイス間の技術融合による研究開発の加速が期待される。また、わが国がこれらの研究開発を進めるための具体的方策として、1. 電気-物質エネルギー変換技術に関してデバイス横断的に異分野研究者間の知の循環を促進する研究開発プロジェクトの推進、2. 分野外からの新規参入の障壁を取り払うための研究基盤の整備、3. インフォマティクスを利用した材料・デバイス開発に関する研究開発の推進や研究開発体制の構築を提言する。
    カーボンニュートラルをはじめとする持続可能な社会の実現に向けて、環境負荷の小さい再生可能エネルギーを化石資源の代替エネルギー源として大量導入することが求められる。再生可能エネルギーは時間変動性による需要と供給のミスマッチや適地の局在性という短所を有しており、その問題点を克服するための蓄電システムや燃料への転換(エネルギーキャリア)などの大量導入も必要となる。しかしながら、現有の技術を大量に実装するだけでは、持続可能な社会の実現はほど遠い。例えば、蓄電池や水素燃料電池・水電解(水素製造)といった電気化学システムは、現在利用されている反応環境で作動させるためには、材料として希少資源が必要となる場合があり、資源確保のリスクが懸念される。希少資源を必要とする要因は、電気化学システムの反応環境(温度、pH、電圧等)に起因する。このような問題に対し、従来よりも温和な反応環境の実現、従来よりも資源効率の高い反応環境の実現などが期待され、これには革新的な材料・デバイス技術の創出が不可欠である。再生可能エネルギーの大量導入という観点では、再生可能エネルギーの変動性に追従するインフラとして、突発的な環境変動も吸収できるような材料・デバイスへのニーズも生まれている。さらに、化成品原料もしくは化成品の電気化学プロセスによる製造、製鉄・セメントなどのマテリアル製造の電気化学プロセス化、などの新たな応用分野への展開も期待されている。
    このように、電気化学システムはカーボンニュートラル社会のインフラとして重要な位置づけにあるが、希少資源利用の問題や新たなシステムニーズに応えるための反応場の拡張が求められている。これらの問題に対し、本提言は、電気-物質エネルギー変換反応場の拡張に貢献する材料・デバイス創出の推進を提案する。長らく電気化学デバイスの研究開発は、個々のデバイスの高機能化や先鋭化によって進 展してきたが、そのようなアプローチは行き詰まりを見せつつある。また、電気化学デバイスの高度化に伴い、従来の学理では取り扱うことが難しい新たなサイエンスが要求されている。例えば、電気自動車向けの高性能蓄電池ではナノ~マイクロスケールに様々な構成要素が閉じこめられており、そのような複雑な構造を持つ反応場での現象理解や制御手法の確立が不可欠である。また、高速な水電解・燃料電池では電極から生成される泡(バブル)が性能を左右することが知られているが、物質変換過程から物質移動までの複雑な反応場を理解する方法論は確立されていない。このような反応場の拡張に伴うデバイス横断的な学理を構築し、新たなコンセプトの材料創出やデバイスごとに蓄積された技術の融合を進めることで材料開発の効率化や加速を促すことを提言する。具体的には、次に示す4つの研究開発課題に取り組むべきである。
    1.電気-物質エネルギー変換反応場の横断的理解に向けた基盤科学の構築
    電気化学デバイスは電気-物質エネルギー変換反応場として、目的の異なるデバイスにおいても多くの共通因子を含む。しかし現在は個々のデバイスに特化・細分化された研究開発が進んでいる。デバイス横断的な反応場の学理を構築することで、デバイス横断的な材料コンセプトや新規材料・デバイス開発技術の創出が期待される。特に、反応場の拡張には高電流・高電圧・高温等の過酷な環境を伴う場合も多いため、極限環境の反応場の理解を支える基盤科学の構築が必要となる。具体的には、異種材料からなる界面現象の理解、反応場の環境特性(温度、電位、pH)に応じた物質状態の理解、電子伝導・イオン伝導機構の解明と新たな伝導機構の探索などが挙げられる。反応場の理解を支えるためのオペランド計測技術、第一原理計算・マルチスケールシミュレーション手法やデータ科学的な方法論の構築も進める必要がある。ここで構築した方法論は、以下に示す研究開発課題2、3、4の推進にも貢献する。
    2.電気化学デバイスの動作環境の拡大に資する材料開発
    反応場の拡張に向けて、従来とは全く異なる動作環境を実現する新規材料や、従来デバイスよりも広い動作環境に追随できる新規材料の研究開発が必要となる。具体的には、温度、電位、pH(イオン濃度)などの拡張に資する電極材料、電解質材料、膜材料、電極触媒、導電性材料開発などの研究開発課題がある。これらは大量実装を見据えて低コスト、資源制約の克服、高安定性の実現が求められる。
    3.新規材料を用いた革新的電気化学デバイスの創出
    カーボンニュートラル社会の実現には電気化学システムの大規模導入や応用領域の多様化が求められる。反応場の学理や新規材料を基盤として、革新的電気化学デバイス創出を合理的かつ迅速に進める。資源制約の小さい蓄電・電解デバイスによるエネルギー応用、CO2等の新たな原料を用いた化成品電解合成、アルコール合成による化学分野や食糧分野への応用、機能性材料や鉄鋼・セメントの製造などの新興領域への展開、などが期待される。
    4.電気化学材料・デバイスインフォマティクス技術の確立
    電気化学デバイスの多様化に対応するため、用途に応じて材料、デバイス構造、動作パラメーターを迅速に最適化する技術の確立が必要である。一方、電気-物質エネルギー変換プロセスは反応基質・キャリア、電極材料、電解質材料といった構成要素の自由度が非常に高い。また、異種材料が界面を通じて複雑に絡み合っており、デバイス特性の最適化にはその構造制御も求められる。このような膨大な組み合わせを持つ複雑な反応場において、目的の機能を発揮する材料やデバイス構造を迅速に設計・実装するためのインフォマティクス技術の確立が求められる。
    具体的には、ハイスループット計算やハイスループット実験、先端計測によって得られる大規模データを利用したデータ駆動型の材料開発(マテリアルズ・インフォマティクス)技術を構築する。さらに、研究開発課題1で得られるデバイス横断的な学理を援用し、異種材料の組み合わせやデバイス設計までを行うデバイス・インフォマティクスに展開していくことが望ましい。

    これら研究開発課題の推進方策は次の通りである。デバイス横断的な基盤科学の追求、材料探索、デバイス開発に取り組むプロジェクトを推進し、異分野からの新規参入を促す。異分野からの新規参入障壁を下げるため、革新的な材料・デバイスの概念実証や標準評価技術の確立を容易にする研究支援体制を強化する。また、電気化学材料・デバイスインフォマティクス技術確立のための拠点構築、革新的な電気化学デバイスの社会実装を促進するコンソーシアムの設立、なども併せて推進する。
  • 科学技術未来戦略ワークショップ「電気 ‒ 物質エネルギー変換 反応場の開拓に向けた材料開発」

    ワークショップ報告書全文pdf
  • 開催日時:2022年3月5日(土) 10:00–17:40
  • 開催場所:TKP市ヶ谷バンケットホール9CとZoomのハイブリッド開催
  • オーガナイザー:曽根純一(CRDS上席フェロー)
  • ファシリテータ:沼澤修平(CRDS フェロー)

  • メンバー

  • 総括責任者 曽根 純一 上席フェロー (ナノテクノロジー・材料ユニット)
  • リーダー 沼澤 修平 フェロー (ナノテクノロジー・材料ユニット)
  • メンバー
    石原 毅 主任調査員 (研究プロジェクト推進部)
    佐藤 勝昭 特任フェロー (ナノテクノロジー・材料ユニット)
    中村 新 主任専門員 (戦略研究推進部)
    福井 弘行 フェロー (ナノテクノロジー・材料ユニット)
    本間 格 特任フェロー (ナノテクノロジー・材料ユニット)
    眞子 隆志 フェロー (ナノテクノロジー・材料ユニット)
    八巻 徹也 特任フェロー (ナノテクノロジー・材料ユニット)
    山下 勝久 主任専門員 (戦略研究推進部)
    宮下 哲 フェロー (ナノテクノロジー・材料ユニット)

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