物971107
電子物性工学U 佐藤勝昭教官 1997.11.7
E-mail: satokats@cc.tuat.ac.jp, Home page: http://www.tuat.ac.jp/~katsuaki/
11/10から来年1/9までオランダのナイメーヘン(Nijmegen)大学に在外研究で出張します。
次回の講義1/23にします。(1/16は大学入試センターテスト準備のため休講です)
  休講の埋め合わせは、2月6日、2月9日の2日間に集中講義で対応します。ご了承下さい。


第3回(1997.10.31)の学習内容
光物性入門
キーワード
:色と波長,可視光線380nm-780nm
紫外線 -380--430--490--560--590--620--780-赤外線
CIE色度図
色を感じる仕組み:網膜の視細胞(棹状体、錐状体)のうち中心部にある錐状体が色を感じる。
赤、緑、青の3種類の色に感じる細胞がある。3つの細胞の刺激の程度によって色を感じる。カラーテレビでは、左のCIE色度図の三角形の中の色を表 現できる。
三刺激値
色の原因:選択反射、選択吸収、干渉、回折、散乱、発光
鉱物の名前と色:金(Au):こがね(黄)、銀(Ag):いろがね(白)、銅(Cu):あかがね(赤)、鉄(Fe):くろがね(黒)

第3回の問題
金色とは何か。

標準解答
 緑〜赤の波長の光を強く反射し、青〜紫の波長の光の反射が少ないと加色混合によって黄色に見え、かつ反射率が高いために周りが映り込んで複雑な色となる。これが、金色である。


学生からの質問と回答
光物性
Q: 選択反射、選択吸収を詳しく(横山)→A: 11/7の授業でやります。
Q: 金属でも半透明なものがあることが分かった。今まで薄い金属は分子の隙間を抜ける波長で見えると思っていたがそう考えてもよいか。(H2辻本)→A: 金属結合では「分子の隙間」はありません。金属のなかでは、負に帯電した伝導電子の「海」に、正に帯電した原子核が浮かんで並んでいるようなイメージです。電子は、外から来た光の電界を「遮蔽(しゃへい)」して中に入れない効果をもたらします。ところが、プラズマ周波数より高い周波数(従ってプラズマ波長より短い波長)の光が来ると、遮蔽が起きなくなって光が中に入り込みます。それでも吸収係数が105cm-1程度あるので、よほど薄くない限り、減衰してしまって透過しないのです。(吸収係数についてはp.111参照)
Q: 非結晶(アモルファス?)物質にもバンドギャップがあると聞きましたがどうしてか。(H2坂本)→A: アモルファス(非晶質)の物質においてもある原子の周りだけを見ると結晶の場合とそんなに違ってはいません。シリコンを例に取ると、結晶でも、アモルファスでも、1つの原子の周りに4個の原子がある(これを4配位という)点は同じで、ちがうのは結合の長さがばらついていたり、結合の角度が揺らいでいたりするため、空間的な規則性(並進対称性)が破れていますが、原子間距離などは似たようなものですから、結晶と同じようにバンド構造をもちます。ただし、伝導帯の底のエネルギーや、価電子帯の頂のエネルギーが、場所によって凸凹になっています。そのため、電気伝導性などが結晶とは異なってきます。(教科書p.271参照)
Q: なぜ波長によって光は見えたり見えなかったりするのか。(H2細谷、中埜)→A: ある波長λ[nm]の光は、それに対応する光子エネルギーE[eV]=1240/λを持ちます。目の視細胞中には色素があって、ある光子エネルギーの光を受けて励起状態になり、それが緩和するときに次々に化学変化を起こし、シナプスを通して神経細胞に情報を伝えます。このような現象が起きるためには、色素の吸収帯に相当する範囲の光子エネルギーが必要です。そのため、光子エネルギーが高すぎても低すぎても色素が吸収できないのです。
Q: 加色混合ですべての色ができるのか(H1山下)→A: 授業で話しましたが、3原色を用いる限り上の色度図に示すように、三角形の範囲内の色しか表現できません。
Q: 波長ベクトルの概念がつかめない。(山崎)→A: 波数ベクトルのことですね。波数というのは、波の空間的な周波数(波の空間的な密度)のことで、ベクトルというのは波が進行の方向と向きをもっていることを表現しているのです。
Q: バンドギャップを「見る」という表現があったが見ることができるのか(山崎)→A: 「見る」と表現しましたが、「バンドギャップ」そのものは見えません。正しくは、「観測する」ということで、「分光器を使って吸収スペクトルを測定する」ことも含まれます。
Q: 紫外線を見る方法は(H1川端)→A: 紫外線そのものは見えませんから、蛍光板に当てて可視光線に変換して見るのです。
Q: 鏡はかなり反射率が高いが何を用いているか。(H1石谷)→A: 平面性のよいガラス板の裏面にアルミニウムなどの金属薄膜を付着させたものです。光学実験用の鏡は、ガラス表面にアルミニウムなどを蒸着し、その上をフッ化マグネシウムなどの薄い透明保護膜で覆ってあります。
Q: 黄鉄鉱の試料の1片がきれいに切断されていたが何かに使ったのか(H1天野)→A:あの鉱石はアメリカのコロラド州のデンバー空港の土産物屋で買ったのですが、買ったときからあのようになっていました。

光デバイス・材料(光ディスク、プリンタ、ブラウン管、太陽電池、レーザ、光ファイバ)
Q: CD-Rのメディアは溝がないのに黄色っぽく反射して見える。あれは回折ではないはずだが(石川)→A: 金色をしていますが、反射層として本当に金の薄膜を使っているからです。なお、CD-Rにもちゃんと溝があります。よく、観察してごらん、回折による虹色が見えるよ。
Q: DVDとVCDの違い(H1スライマン)→A: VCDはこれまでのCDの規格をそのままにしてvideoに対応しますからあまり容量が大きくありません。DVDには、DVD-ROM、DVD-R、DVD-R/Wの3種類があります。DVD-ROMは、トラックピッチ0.74μm、ビット長0.27μm;片面4.7GBの高密度で読み出し専用です。DVD-Rは1回だけ記録でき、CD-Rと同様に色素を使っています。一方、DVD-R/Wは、PD(相変化ディスク)と同様で、1000回程度消去、再記録できます。記録容量は片面2.7GB程度です。
Q: 安いカラープリンタは黒がきれいに出ないがなぜか。(石川)→A: カラーテレビが「光」の3原色R、G、Bの加色混合であるのに対し、カラープリンタは、「色」の三原色M(マゼンタ)、Y(黄)、C(シアン)の減色混合です。3色の濃さのバランスが悪いと黒になりません。この問題を解決するため、中クラスのプリンタ(Canon BJ-420など)では、黒のインクを使っています。
Q: TV画面にはRGBの発光体が並んでいるがその発光体の隙間は何色か。(H2中嶋)→A: 色のにじみを抑えるため、黒色の塗料が使われています。これを使ったブラウン管はBlack Matrix管といいますが、日本企業の発明です。
Q: 太陽電池の基本的な仕組みを教えて欲しい。(H2松田)→A: 太陽電池ではp/n接合に光を照射したことによって作られた電子・正孔対がp/n接合の内蔵電位差により分離されるので、電流が取り出されるのです。
Q: 今のレーザの最大の出力はどれくらいか(H2山本)→A: 半導体レーザでは1W程度です。ガスレーザでは、核融合に用いるくらい大きな出力のものがあります。
Q: 光ファイバの働きを知りたい(H2, Wong)→A: 石英ガラスを引き延ばして作ります。同心円状の二重構造になっていて、内側をコア、外側をクラッドと呼びます。クラッドの屈折率はコアの屈折率より低いので、コアを伝わる光は全反射して長距離にわたりロスなく伝わることができます。
Q: 時計の数字や針に使われる蛍光物質は選択反射か(H2鈴木隆)→A: 発光現象が起きています。光を吸収して励起状態になった物質が、もとの状態に戻るときの発光をフォトルミネセンスといいます。完全にもとに戻るのに時間がかかるものを「燐光」といいますが、夜光塗料はこの現象を利用しています。

学習法他
Q: 電子物性工学の本にはどれにも難しい式が載っていて読んでいて頭が痛くなるが、そういうものだとして割り切って読むのが大切か(H2栗原)→A: 一般に物理関係の本の難しさには2種類あります。1つは、数学的に難しい(例えば、複素関数、汎関数、群論、超越関数、特殊関数など)のと、その物理的意味が難しいのとの2種類です。物性関係では、難しい数学が使われることはほとんどありません。使うのはベクトル解析と微分積分くらいです。それで頭が痛くなるのは、背景にある物理現象が分からないからです。だから、下手に式を導くことに努力せず、もっと、式の背景にある物理的意味を理解しようと努力して欲しいと思います。
Q: 人工知能を学びたいが「認識」という観点から「色」は重要か。H2コースで人工知能は学べるか(林辺)→A: 大森先生は脳型コンピュータの研究をしていますが、彼の提唱する認識モデル「パトン」においては、ものを「認識」するときの要素として「色」、「形」などを扱っています。興味があれば、色の認識の仕組みをもっと追求してもよいと思います。
Q: 4年生の卒業研究はどう決まるか(H1 Yong)→A: H1とH2でやり方が若干違いますが、いずれも、最初に学生から希望を出してもらい、H1では各研究室の教官の判断で、H2では2名のみ教官の指名、その他は学生の調整できまります。来年度は、H1, H2の相互乗り入れがある枠の中で検討されています。詳細は未定です。