金属についてのQ&A

材料一般

1.    構造材料と機能材料の違いがよくわからない→自動車のボディーを作っている鋼板は構造材料です。しかし鉄を磁性体としてみたらそれば機能材料ということになります。

2.    金属は昔からよく使われているが、今現在でも精製法に改良が加えられているか→A. 省資源、省エネルギー、環境適合性などの観点から、改良が行われています。特に環境汚染物質をどうすれば出さないで作れるかが大きな課題になっています。すべてのプロセスの見直しがなされているようです。

3.    金は食べたりするが毒性はないのか→A. 金はさびにくいものですが、他の分子と結合しにくく体内にほとんど取り込まれません。金は安定で蓄積作用もないので安全性には全く問題ありません。

4.    金属元素の結晶構造にはプリントに乗っている以外のもあるか→A. プリントのはあくまで室温で、1気圧で安定な相のみです。高温相では別の構造をとるものもありますとるものもあります。

5.    なぜアルミは軽いのか→A: Alの原子番号は13, 原子量は27ですから、Mg(原子番号12, 原子量24)についで軽い金属です。実用金属としてAlの次に軽いのはTi(原子番号22, 原子量48)ですから、はるかに軽いことは明らかです。(このことは、高校生でも知っていると思うのですが)

6.    マイクロチップのボンディングAuが使われているそうだが、Agの方が電気伝導率も低く、引っ張り強さも大きく有利ではないのか。 ボンディングワイヤはCuの方がよいと思うが。→A: AgはAuよりさびやすいです。CuはAuに比べて軟らかくないので、圧着や超音波ボンディングが難しいので使いません。

7.    金について18Kと24Kはどう違うのか→A: 純金が24K(カラット)、18Kは金の含有量が18/24の合金です。

8.    純粋な鉄はさびにくいと言われたがどのくらいですか→A: ステンレス並といっておきましょう。

9.    鉄にも固体・液体・気体という相は存在するのでしょうか→A: はい、存在します。高温にしますと、融液という液体になります。溶鉱炉の中の鉄はどろどろに溶けた液体です。また、高温の鉄融液からは鉄の気体が蒸発しています。真空蒸着で鉄の薄膜が出来ますが、気体となって飛んでいくのです。

10.先生がちらっとおっしゃった透明な誘電体が気になる→A. 誘電体でなく電気伝導体です。透明電極などといいます。In-Sn-Oの化合物の薄膜です。これは金属ではなく縮退した半導体といって伝導電子がたくさんある半導体です。ZnOも透明電極になります。

 

金属の物性と電子状態

11.金属は自由電子を持っているがどうやって結合しているか分からない→A: マイナスの電荷の海にプラスの電荷が浮かんでいて、プラスの電荷が等間隔に並ぶと静電エネルギーが低くなるのです。

12.金属の電気的性質は原子の配置で変わるのですか→A: 金属は金属結合という結合の仕方で電気的性質が決まっていますが、その移動度などの詳細は、電子構造によってきまっており、電子構造は結晶構造つまり原子の配置によって変わります。

13.金属の自由電子は全ての電子でなく最外殻電子ですか→A:その通りです。さらにフェルミ準位付近のエネルギーを持つ電子のみです。

14.授業でCuは1価だということだった。1価の金属なのにイオンになると2価になるのは何故でしょう→A. Cuの電子配置はアルゴンの閉殻(1s22s22p63s23p6)の外に3d104s1という外殻電子をもっています。4s電子を1個もっていて、これが金属結合に関与していることが1価金属である由来です。硫黄と結合するときにはこの1個の電子が硫黄との共有結合に使われCu1+となります。しかし、酸素と結合すると、4s電子1個と3d電子1個がイオン結合に使われて結果的にCu2+になります。つまりイオン価数は、金属の価数とは関係なくアニオンの種類や結合の性質によって変わるのです。遷移金属はイオンになるといろいろの価数をとります。例えばCr(3d54s1)はGaAsに添加されたとき、Cr1+(3d5), Cr2+(3d4), Cr3+(3d3)のいずれの価数をもとることが知られています。

15.なぜAuがよく伸び、金属の中にはほとんど伸びないものもあるのはなぜですか→A: Auなど貴金属の結合にはs,p電子が寄与していますが、Fe, Tiなど遷移金属の結合にはd電子が寄与しています。金属結合は、原子の外殻電子のうちs,p電子が結晶全体に広がることによって全エネルギーが低下することが原因ですが、このことが通常金属(Na, Mg, Alなど)や貴金属(Cu, Ag, Au)の柔らかさをもたらします。一方、d電子は隣接原子付近に局在しており、このことが結合の強さをもたらしています。

 

 

物質の硬さと強さ

16.強さと硬さの決定的な答えは何か→A. 硬さは、物質そのものの変形のしにくさの尺度で、結合の仕方やミクロの結晶構造によってきまる。一方、強さは物質の壊れにくさの尺度で、物質そのものの性質だけでなく、物質のマクロな構造、加工の仕方にも関係する量です。セラミクスは硬いので鉄の包丁を研ぐことが出来ますが、鉄の包丁で衝撃を加えたとき簡単に割れてしまいます。従って、セラミクスは鉄より硬いが強くないと言えます。金と鉄を比べますと、金の硬度は2.5であるのに対し鉄は4で鉄の方が硬く、引っ張り強さも金線が2.0-2.5×108Paであるのに対し鉄線は軟鉄でも4.6×108Paもありますから、鉄は金より硬くて強いということになります。

17.最高加重を超えると金属は切断されるのか→A. その通りです。

18.結晶の欠陥を制御して金属の特性を変えていることに驚いた。その欠陥の作り方は偶発的なものか意図的なものか→A. 金属の長い歴史の中で経験的に積み重ねられてきたプロセスです。最近になって、電子顕微鏡などで金属の組織を観察できるようになって、欠陥が関与していることがわかったのです。

19.硬さは、原子そのものの性質ではなく結晶を組んだときの強さに関係するというのが印象に残った。→A.鉄は、遷移金属であり、体心立方なので、引っ張り強さが大きいし、硬度も確かにかたいのです。しかし、鉄は鍛造や焼鈍をとおして固体のままで加工ができるというメリットがあります。この点は、金属のの「柔らかさ」のおかげでしょう。

20.引っ張り強度以外に金属の強さの測定法がありますか→A: 材料のねばさ(靱性toughness)という評価法があります。これは、材料に衝撃的な力を加えたときの抵抗の度合いで表します。

21.刀は、刃の材と心材が別のものを組むそうだが転位を防ぐ知恵か→A: 刀は純粋の鉄ではなく鋼(はがね)といって、FeとCの合金なのです。Cの成分が増加するほど硬度が増します。刀の心材はCの少ない硬度の低い鋼を使います。一方、皮材はCの含有量がやや多い硬い鋼を何度も焼鈍し鍛錬して転位を増やして転位が動きにくくします。また叩くことでCの拡散を促進し鋼の質を均質にします。こうすることで折れにくい刀が出来るのです。

22.強いということは構造体が流動的に伸びることですか→A: 変形しても結晶面のすべりがおきて変形しやすい場合もあります以前、マンガで「純粋な金属は弱い(脆い?)、不純物を入れてやると金属は強く(硬く?)なる」ということを読んだが真偽を知りたい(中谷)→A. 君たちの知識はマンガからなのですね。純粋な金属が弱いとは限りません。ケースバイケースです。ハンダは錫と鉛の合金ですが、錫や鉛より軟らかいのです。一方、鉄に炭素を入れると鋼(はがね)となって硬くなることはよく知られています。

23.硬さと強さが車のボディの材質にも関係するか→A: 車のボディはプレスによって成形するので、加工しやすい極軟鋼( C含有量0.12%以下)を用います。従って、決して硬くないのですぐへこみますが、破断しにくいのです。

24.強さの方が重要という印象を受けたが、硬度という目安は何に使うのか。硬さが役立つ材料は?。強く硬い金属は作れるか→A: 硬いことが重要な用途もあります。例えば、工作機械に使う金属は、超硬合金といってWC(炭化タングステン)を基本とする硬い合金が使われます。工具用合金は強さも必要です。

25.実際に最も強い金属は何か→A: ピアノ線は引っ張り強さは抜群です。

26.金属で一番硬いものは何か→A: W, Moなどの高融点金属は硬いとされています。合金ではWCが最も硬い。

27.硬さをくさびを落として決めるのは意外だった。金属の一部が砕けることはないのか→A: 確かにもろい金属の場合はこの方法は使えません。

28.金属疲労で金属が割れるときの仕組みは?→A: 繰り返し応力がかかると、弾性ヒステリシス曲線の囲む面積がエネルギー損失に相当し、熱歪み塑性歪みとなって、ついに破壊に至るのです。

29.歯の硬度はいくらか→A: アパタイト(フッ化燐酸カルシウム)と同程度ですから、モース硬度は5程度です。

30.ダイヤモンドは結晶がきれいだから割れるという話をしたが、小さい普通にあるものも割れるか→A. ブリルアンカットした小さい宝石を劈開するのは難しいでしょうが、やってやれないことはありません。一度自分のでおためしください?!

31.ダイヤモンドが硬いことと、割れないことは違うといったが、よく理解できない→A. 硬いということは、圧縮しても変形しないということです。物質の圧縮率は結晶の原子間結合の強さに関係しています。一方、わずかな力で割れるのは、格子面のすべりがおきることに関係します。1本の転位(dislocation)が入るだけで、大したエネルギーなしに格子面のすべりがおきます。

32.「すべり易さ」というのを利用すれば、ダイヤモンドを金属で加工できるのでしょうか。 ダイヤモンドは何で削るのですか。 ダイヤモンドのカットは何でやるのか。→A:ダイヤモンドは確かに衝撃によって劈開をしますが、特定の面しか劈開しないので、宝石のブリルアンカットのような微妙で複雑な結晶面を出す加工は、ダイヤモンド同士でしかできません。ダイヤモンドの結晶面によって硬さが微妙に異なるので、相対的に柔らかな面を削ることが出来るのです。

33.格子面がすべっている写真はないか→A. X線トポグラフィという方法で転位線が動いていく様子を見ることが出来ますが、格子面自身の動きを見ることは出来ません。

 

金属と光・色

34.金属の色は反射によるというが、本来の色はないのですか→A: 金属には選択反射する性質があり、それが本来の色で、周りのものを写し込むので複雑な色合いになります。

35.Cuは赤っぽいのにCuイオンは青っぽい。何か不思議です→A. 金属のCuの色は自由電子が関係する色ですが、Cuイオンの色は、Cu原子に局在した束縛電子の励起による色です。

36.なぜ金属はピカピカなのか。 電子数によって何で色まで変わるのか(古屋)金属の色は何によって決まるか。→A: 金属の反射率の高さは電気伝導と関係があります。伝導電子の数が多いと、ドルーデの法則によって光の周波数領域における誘電率の実数部が負となり、光の電界を遮蔽してしまうので光が中に入り込めないのです。

37.金属全てに金属光沢はあるのか。→A: 表面が平らであれば、金属光沢がありますが、鉄やタングステンなどは反射率が低く、黒光りという状態です。

38.不純物の割合以外に金属の色が変化するか→A: 表面状態や、多層膜の構造によっても変化します。

39.赤や黄色や白の金属があることはわかったが、紫や青の金属もあるか→A. 表面に酸化膜が出来て着色することがありますが、金属自身で紫や青に着色しているものは知りません。合金には、赤紫のものがあります。

40.合金の色の見え方は、構成材料の反射率の平均となるのでしょうか→A. 2種類の金属が混じり合わず、空間的に偏析しているときはほぼ平均値と考えてよいでしょう。しかし、原子のレベルで混じり合うと、電子状態がすっかり違ってしまうのでまったく別物になります。

41.誘電率がゼロだと電束密度がゼロになってしまうし、クーロンの法則が使えなくなるが、ε=0のとき金属はどうなっているのか。→A. 注意して欲しいのは、すべての周波数でゼロになるわけではないことです。ゼロになるのはプラズマ周波数の時だけです。その周波数においては電界があっても電束がありません。直流すなわちω=0のとき、金属の内部では誘電率は定義できません。従ってΕr=-∞です。金属においては、周波数によって誘電率はゼロにも無限大にもなります。

42.誘電率が負ということはどのような意味か→A. 電磁波の電界が物質中ですぐにうち消されるということです。

43.自由電子と伝導電子は同じものか→A. 本当の自由電子は、原子から切り離されて本当に自由空間に置かれた電子です。金属の中の電子は、固体中ですから伝導電子であって、本当の意味での「自由電子」ではありませんが、周期ポテンシャルをまるで自由電子のように通り抜けるので、自由電子として扱うのです。

44.自由電子プラズマの話の中で、誘電率の横軸がhνだったが波長とどういう関係があるか→A. 光の波長λと光子エネルギーhνの間には、hν=hc /λという関係があります。キミの指摘の通りhνをeV単位、λをnm単位で表すと、hν=1240/λ となります。

45.誘電率と金属の関係がわからない→A.光は電磁波なので、その伝播は、マクスウェルの方程式で記述できます。そのとき、誘電率は電界(電場)Eと電束密度(電気変位)Dとの関係を表す係数です。つまり、誘電率は金属の光学的応答を表す働きをもつのです。マクスウェル方程式の詳細は「電磁気学」(2年後期中島先生)で学んで下さい。光物性との関係は量子物性工学(3年前期)でお話しします。お楽しみに!

46.電子分極、プラズマ振動数についてよくわからない。 自由電子(の運動)が(電磁波の振動に)対応(応答?)できるとなぜ反射され、対応できないと吸収されるのかわからなかった。 この授業の内容について載っている参考書はないですか。→A. 説明をはしょってしまい、わからなかったと思います。参考書(山田・佐藤他著:機能材料のための量子工学(講談社)、佐藤・越田著:応用電子物性工学(コロナ社))を読んでください。

47.光の電界で電子が動いて色が出るのなら、光をいろんな方向から当てたり複雑な電界を加えると色は変わるのか。→A. 偏光を使って観察すると、光を当てる方向で物質の色が違って見えます。金属ではありませんがアレクサンドライトなど異方性のある物質では方向によって色が違います。

48.シリコンはピカピカでしたが電気を通しませんね。ピカピカさは表面の分子のそろい具合であって、電気の通し易さとは関係ないのでは?金属の色のことはわかったが、金属光沢も同じ現象か→A.同じピカピカでも、光学研磨したシリコンの反射率は40%程度であるのに対し、銀の反射率は95%以上です。自由電子による反射はプラズマ周波数以下では非常に高いのです。

49.鏡は100%反射するものだと思っていたが実際の反射率は?→A. たいていは金属としてアルミニウムが使われますが、赤の反射率が90%, 緑が91%, 青が92%です。銀だと赤が98%, 緑98%, 青97%です。

50.金属が周りのものを映し込むというが、周りとは何を指すのかわからない。金属本来の色はどうやったら見えるのか→A. 赤い服を着た人が側にいたら、金の本来の色の上に赤が移り込むでしょう。緑の葉っぱが側にあれば、緑が移り込みます。本来の色は再度の低い(灰色の)部屋の中で灰色の服装をしてみれば本来の色がわかるでしょう

51.おでこが光を反射するのは金属の反射とは関係があるのか→A. 毛がないので、平らな皮膚が光を選択反射しているのですが、自由電子によるものではありません。

52.鉄の反射率はどれくらいか→A. 良く磨いたさびていない鉄の反射率は、可視光(380-780nm)の全域で60%弱です。従って決して黒くはなくにぶい銀色です。ちなみに銀の反射率は95-98%ですから、鉄は銀に比べれば黒い金属です。しかし、鉄はさびやすく表面が黒錆に覆われていることも多いです。

53.光沢と艶消しの塗装の違いは何か→A. 表面がざらざらであれば艶消しになり、平坦なら光沢になります。

54.金属に自分の顔が映るのにも難しい仕組みがあることを知って驚いた

55.金属の色による特性の判別は出来るのですか→A: 貴金属の色は自由電子の集団運動がもたらす色です。授業で説明します。

56.最近見るようになったピンクゴールドのアクセサリは色のある合金の1つと思うが、将来、グリーンの合金でアクセサリが作れるとよいと思います。→A: 金属の色は伝導電子(自由電子とも呼ばれる)の集団運動と光学遷移(光による電子の励起)によって決まります。金色は青緑より長い波長の光を多く反射して短い波長を反射しないことが原因です。ピンクゴールドは赤の波長がさらに強く反射するようになっています。干渉の現象を用いれば緑の波長のみを多く反射するようにすることが出来るでしょう。

57.ブルーチタンは金属なのに青色で珍しいと思ったのですが、何を混ぜてあるのででしょうか→A. 以下、ホリエ鰍フHP(Q&A http://www.horie.co.jp/gimon.htm#gimon2)から転載します。チタンは古くから酸化チタンの形で白色顔料として使われていましたが、単体の金属として使用されるようになったのは第二次世界大戦以降です。チタンの特長を一言で言うと「軽い、強い、サビない」。鋼と比べると比重は約三分の二なのに対し、強度は同等、耐食性も抜群です。このような特長から需要の大半は、ジェット機や人工衛星の機材用でしたが、近年の研究開発により「人体に害を与えない」など、新しい特性が見出され、医療分野や装飾品に使われるなど各界で新素材として注目を集めています。<なぜ色彩が見えるのか?>錆びない金属チタンも、表面は極めて薄い自然生成の酸化膜(チタンと酸素の化合物(TiO2))に覆われています。この薄膜は、チタンの錆とも言えますが、屈折率の高い透明な膜を形成しており、この皮膜がプリズムの役割を果たして光線を屈折させる為、光が干渉し合いある波長の光が抜け出し、あたかも着色されたかのように見ることができます。そして、この酸化皮膜の厚さを人工的にオングストローム(10-8cm)単位で調整してやると、光の波長の違いによって無数に近い色を表現できます。しかもこの皮膜は、屈折率の高い透明な皮膜ですから、艶やかで鮮やかな色合いを出す事ができます。

58.いろんな金属を合金させ反射率を調整すればどんな色の金属も作れるか→A. 緑や青の合金を作るのはむずかしいです。チタンの場合のように酸化膜を制御したほうが色の制御は簡単です。

59.ダイヤモンドは非金属なのになぜ光沢があるのですか→A. ダイヤモンドの輝きは、全反射によるものです。

60.折り紙の金って本当の金でないのに金に見えるけれど、金と同じような反射率を持っていると言うことですか、そうだとしたら不思議です。→A. 折り紙の金紙は銀紙(アルミ箔を貼った紙)の上に黄色い薄いセロファンを重ねただけです。なあんだと思うでしょう。でも反射特性は金色とほとんど同じです。金紙の上にテスターのプローブを当てて電気が流れるかやってご覧なさい。セロファンですから電気は流れません。

 

合金・金属間化合物

61.違う金属を混ぜ合わせるとその構造はどうなるのか→A. Good Question! 違う金属を混ぜ合わせると合金や金属間化合物ができますが構造がどうなるかは一概にはいえません。

62.拡散で金属が均等に混ざる話があったが比重は関係するか。→混ぜ合わせる金属の比重が違うと均一に混ざりません。スペースラブで合金を作ると均一になることが確かめられています。

63.身近にある合金と合金使用のメリットを知りたい。→A. キミはしんちゅう(真鍮)を知っていますか。金色をした金属です。これは、黄銅とも呼ばれCu-Znが基本成分ですが、これに微量のPb, Sn, Mn, Al, Feなどを加えたものです。構造材料や配管などとして使われます。ブロンズ(青銅)はCu-Snを基本にZn.Pb,Pなどが加わっています。大仏様やロダンの彫刻などおなじみです。Fe-Ni合金にはインバーと呼ばれる熱膨張係数の小さな合金やパーマロイと呼ばれる磁気的性能の良い合金もあります。ハードディスクはCo-Cr-Ta合金が、MOディスクにはTb-(Fe,Co)合金が使われています。ステンレスというのはFe-Cr合金です。工作機械に使う超硬合金はW-C, Ti-Cなどの複合合金です。合金にすることによって、電子構造が変化し物性が変わるのです。よい方にも悪い方にも変わりますが、合金として実用化されるのは、母合金に比べて何らかのメリットがあるからです。

64.マンガで宇宙の無重力でしかできない合金のことを読んだことがあるが、宇宙で作るメリットはあるのか。→A. 比重の違う2種類の金属を融解しますと、地上では重いものが下に沈むので均一な合金組成のものができません。無重力または微小重力(microgravity)の環境では均一な合金ができることは、東大の西永教授を代表者とするプロジェクトにより、毛利さんや向井さんのスペースラブ実験で証明されました。

65.金属単結晶は実際に利用されているか。→A. 単結晶は理想的な系なので物理の原理を明らかにするときには貴重な存在です。従って、Fe/Cu人工格子におけるMR(磁気抵抗)効果の原理を明らかにするためのエピタキシャル人工格子用の基板として使われたりしています。しかし、世の中に売られている材料としては皆無です。

66.Feの単結晶は強いそうだが、転位は多結晶のみに起きるのか。→A. Frankの結晶成長理論によると、結晶成長の初期のメカニズムには転位が関与しています。螺旋転位を軸として螺旋状に原子が積層され、結晶が延びていくという理論です。従って単結晶成長が終了したときにも、転位は残っています。しかし、直径の小さなウィスカーの場合、転位の数が圧倒的に少ないので、結晶が本来もつ理想値に近い強度を示すのです。

67.講義の中に出てきたFe/Au合金はどんな特徴があるのか。Fe/Au合金は挿入型か(鈴木,林)。新物質をつくるのにこれ以外の方法があるか。→A. Fe/Au合金はMgO(100)基板の上にAu(100)のバッファー(緩衝)層を200nmくらい積んだ上にFe(100)を1原子層、Auを1原子層、再びFeを1原子層、Auを1原子層と積層していきます。すると、Feの構造(bcc)でもない、Auの構造(fcc)でもない正方晶の構造が実現します。ちょっとむずかしいですが、垂直磁気異方性[1]をもち、紫外線領域に大きな磁気光学効果[2]を示すなど、Feにはない磁気的性質をしめします。現在は基礎研究の段階なので実用材料にはなりませんが、他の物質の組み合わせで新材料ができる可能性があります。このような方法以外にも、微小重力で合金を作るとか、融液の急冷とかいろんなやり方が提案されています。

68.同じ結晶構造の金属同士でも挿入型の合金を作ることがあるのですか→A. 原子の大きさが異なると小さな原子は格子間に潜り込みやすくなり挿入型になります。

 



[1] S.Mitani et al.: J.Magn. Magn. Mater. 156, 7 (1996)

[2] K.Sato et al.: J. Appl. Phys. 86, 4985 (1999)