誘電現象の基礎、分極と誘電率

Q1.       電子分極したとき原子はいったいどんな形になっているのか→A. 電子雲の重心と原子核の中心とがずれた形ですが、非常にわずかなので、形が変わるのを見ることは出来ないでしょう

Q2.       電気双極子とは何か→A. 正電荷と負電荷の重心が分かれ対になっているようなものを言います。電界をかけると回転しますから双極子モーメントとも言います。

Q3.       電子分極と光の関係がいまいちぴんとこなかった→A. 3年前期の「量子物性工学」でお話しする予定です。参考書「機能性材料のための量子工学」p.161に量子力学の摂動論を使って光学遷移と電子分極の関係を導いてあります。さらに磁気との関係は、拙著「光と磁気」p. 65-71を読んで下さい。ただし、2年生でははっきり言って無理です。量子力学がしっかり学んで、できれば大学卒業までに時間を含む摂動論が理解できるよう努力して下さい。

Q4.       電子分極はイオン分極が多数集まったとみなせるか→A. 電子とイオンとでは重さが違いますから、電子分極を決してイオン分極ではあらわせません。

Q5.       電子分極はファンデアワールス力の原因か→A. ファンデアワールス力は双極子・双極子相互作用です。電子分極が双極子を作っている場合もあります。非常に弱い力でして、すぐ近くに接近していないと働かないのです。フラーレンの結合はファンデアワールス力ではありません。

Q6.       分極は不安定になるか→A. 温度により不安定になることがあります。

Q7.       分極は振動するか→A. 交流の電界や、光のような高周波の電界に対して振動します。

Q8.       誘電率の高い低いは何できまるか→A. 永久双極子のあるものは一般に大きな誘電率を持ちます。また、イオン性の強い物質はイオン分極による誘電率が高いです。電子分極に関しては、一般に、強い光学遷移が低いエネルギーにあると大きくなります。半導体ではバンドギャップが小さいほど大きな誘電率を持ちます。

Q9.       磁界があるとき誘電体にはどのような影響があるか→A. ある種の物質では磁界の存在により誘電率テンソルの非対角成分が生じ、左右円偏光に対する応答の違いをもたらします。これが磁気光学効果で、MDの再生の原理として使われています。詳しくは佐藤勝昭著「光と磁気」(朝倉書店)を読んで下さい。

Q10.   回転する分極があるといったがそれについて知りたい。電子分極がMDに関わることにが印象に残った。→A. 円偏光によって回転する分極が生じます。これはできれば磁性体のところで少しふれます。

Q11.   電界で分極したものを電界の印加をやめるともとにもどるか→A. 戻るものと戻らないものがあります。永久双極子の場合に、強誘電性が存在しますと、もどりません。

Q12.   プロトンを動かすのは電界だけか。→A. 普通、電界による分極を考えます

Q13.   イオン分極で正イオンが移動すると元の場所が負になる理由がわからない。→A. イオン結晶ではかならず正負の電荷がバランスしています。一方が動くとバランスが壊れるのです。

Q14.   量子力学入門で1電子コンデンサという話を聞いたが、材料をどうにかしてできるのか。→A. 微細加工で実現しようとしています。

Q15.   コンデンサの電極間間隔dを極小にするとトンネル効果が起きるのですか。→A. 絶縁体の厚みが数Åになるとトンネル効果がおきます。広い面積にわたって均一に数Åの絶縁物を形成するのは極めて困難ですが、微小領域ならそれほど難しくはありません。

 

コンデンサ・キャパシタ

Q16.   コンデンサには大きなものや小さなものがあるが、それぞれどのような用途に使われているのでしょうか。→A.一般に電気容量が大きなものは、大きくなります。電気容量Cの値が同じでも、耐圧が高ければ大きくなります。一般に電源回路には容量の大きなコンデンサが使われます。

Q17.   コンデンサの色々な種類のものはどういう使い分けをするのか。→A. 大きな容量のものは殆どが電解コンデンサです。これは極性がある(逆にすると爆発します)上に、高周波特性が悪いので電源にしか使えません。一方、チタコンは安くて結構誘電損失も少ないのですが、温度特性がわるいので、精密な特性が必要な場合には使えません。ポリスチロールコンデンサ(スチコン)は誘電損失が少なく温度特性が極めて良いのですが、かなり高価です。数GHzのマイクロ波になると通常のコンデンサは損失が多くて使えないので、ルチルTiO2など赤外吸収の少ない材料を使います。(赤外域の損失の裾がマイクロ波領域まで来るのです)こんな風に、周波数特性、温度変化、容量、価格などを総合して選択します。それが技術というものです。

Q18.   実際はどんなものが誘電体として使われているか。→A. コンデンサ材料だけでも数10種類あります。紙、油、ポリエチレン、ポリスチレン、酸化タンタル、チタン酸バリウム、電解液、酸化アルミセラミクスetc.

Q19.   誘電体は色々応用されるが値段が安いと聞いたが実際いくら位するのか。→A. 秋葉原でジャンク屋さんに行ってご覧。ビニール袋にコンデンサをいっぱい詰め込んで1000円とかで売っています。自動実装用の機関銃の弾みたいに紙のベルトにずらっと連なっているコンデンサや抵抗だと1個が5円以下になっています。

Q20.   DRAMでコンデンサが記憶すると言っていたがなぜそんなことが出来るか。→A. コンデンサは電荷を蓄えることができます。それとトランジスタのスイッチ作用を利用しているだけです。

Q21.   半導体のメモリはコンデンサが記憶すると言ったが膨大な数になるではないか→A. そのとおり、64MbDRAMでは1cm平方に6400万個ものトランジスタとコンデンサの対があるのです。

Q22.   一般にDRAMに用いられているコンデンサの厚みはどのくらいなのか。また、薄くても高級なものなら・・とあったが、高級とはどんなもののことなのかA. ということです。アモルファスSiO2の場合の実効膜厚は5nm=50Åということです。高級と言ったつもりはありません。高誘電率のものというつもりでした。

 

自発分極と強誘電体

Q23.   チタン酸バリウムはなぜ誘電率が大きいのですか(杉沢)→A. 強誘電体で自発分極があるためです。

Q24.   自発分極は、どの分極にも起きることか。→A. 電子分極には自発分極はおきません。

Q25.   強誘電体と普通の誘電体とではどのくらい性能が違うのか。→A. フツーの誘電体の比誘電率は、SiO23.8, NaClでは5.9Al2O3(サファイア)9.4ですが、強誘電体ではBaTiO35000、ロッシェル塩で4000にもなります。

Q26.   空間電荷とは何か。→A.電子やイオンの移動により電荷が蓄積する状態を空間電荷と言います。分極が出来て誘電体の両端面に正と負の電荷がむき出しになると電圧が生じてしまいますが、それを打ち消すように物質中や空気中から電荷が移動してきます。この結果、自発分極した誘電体をもってもバチッと放電することはありません。

Q27.   自発分極はなぜPsと書くのか。→A. Spontaneous polarizationのsです。

Q28.   キュリー温度とは何か。→A. 強磁性体や強誘電体が自発磁化や自発分極を失う温度のことです。

Q29.   重いバリウムが動かないで軽いチタンが動くと言ったがよくわからない。→A. 原子の重さです。高校の理科で原子量のことをならったはずです。

 

圧電効果

Q30.   圧電効果は圧電材料を使ったときだけ現れるのか。→A. 圧電効果が現れるには結晶の対称性に制約があります。中心対称(反転対称)がある物質では圧電性は決して生じません。中心対称を持たない結晶族は21種類ありますが、そのうち20の晶族が圧電性を示します。(参考書「機能性材料のための量子工学」p.213)

Q31.   圧電材料に圧力をかけると双極子が動くと言ったがなぜそれで電圧を生じるのか。→A. 通常自発分極があっても、空間電荷がそれを打ち消すので外部には電圧を生じませんが、交流的な振動や、衝撃的な圧力がかかりますと分極の変化がおき、空間電荷が蓄積するには時間遅れがあるため、分極変化に相当する電圧が生じます。

Q32.   圧電現象が発見されたのはいつ頃か。→A. 19世紀です。

Q33.   PZT以外の圧電体は。→A. 農工大の宮田先生が開発したプラスチックフィルムを用いた透明スピーカというのがありますが、高分子フィルムにも圧電性の大きなものがあるようです。

 

圧電現象と超音波

Q34.   圧電マイクとはどういう構造か。「圧電」がわからない→A. ある種の誘電体に応力を加えたときに電圧が生じます。また、電圧を加えたときに歪みを生じることもあります。このような効果を圧電効果(piezoelectric effect)といいます。圧電効果があると、空気の振動を加えると交流電圧を発生します。これが圧電マイクです。

Q35.   ソナーでは自分で超音波を発して自分で受けると言ったが物体の性質が変わるのか、それとも両方の性質をもっているのか。→A. 圧電現象は相反的で、物質の電気とひずみの変換係数は同じ1つのものなのです。

Q36.   電子マッチはどのように圧力変化を与えるのか。→A. ガス湯沸かしなどの圧電点火では以前はスイッチをひねったときにハンマーで圧電物質を叩いて、圧力をかけ高電圧を発生し放電を起こしていました。最近の電子マッチは、パルス的にコンデンサの充放電をスイッチして高電圧を得ているようで圧電材料ではないようです。

Q37.   インダクタンスと誘電率は関係があるか。→A. 全く関係はありません。TVの中間周波トランスをSAWデバイスで置き換えることが出来るのは、トランスの場合にはコンデンサとの組み合わせで共振回路をつくってバンドパスフィルタを構成していたのを、SAWでは音波の共振現象を利用することによりフィルタを構成できたからです。

Q38.   電化製品で音のでるものは圧電体が入っていると考えて良いか。→A. このごろ電子レンジや冷蔵庫が喋るのがありますが、あれは普通のスピーカを使っているのではないでしょうか。チチッとかピピッとかいうのは圧電振動子です。

Q39.   イルカが超音波で交信していることが出たが、動物の特性をヒントにしたものは他にもあるのか。→A. グライダーは鳥が滑空する様子を学んで作られたと聞いています。また、目の情報処理は、視神経の神経回路網における何段階かの情報処理が行われていることが明らかになっており、それを模したニューラルネットワークという回路構成の手法が使われ、文字を認識することを学習するマシンが出来ています。三菱電機から販売されている網膜チップというCCD-ICはニューラルネットの手法で手書き文字を認識し判別します。生物の機能に学ぶ技術のことをバイオミメティックといいます。生命工学科や生物システム応用科学研究科では何人かの先生がそのような研究をしています。

Q40.   トイレの自動洗浄に圧電効果は関係あるか。→A. 全く関係ありません。あれは、赤外線の発光ダイオードとセンサ(赤外線検出用のフォトダイオード)が組になっていて、人が前に立つと赤外線が反射されてセンサが働き待機状態になります。次に人が離れるとセンサ出力が変化するのでそれにより、水栓を開け水を流すのです。

Q41.   車間距離を自動調整する車も圧電材料をつかっているのか。→A. たぶん使ってないと思います。

 

水晶振動子

Q42.   ラジコン等に使われている水晶はどのように発振しているのか。→A:水晶は圧電性があり、電気信号を歪みに変換したり、歪みを電気信号に変換する働きがあります。結晶に周期的な歪みが加わると音波として水晶中を伝搬しますが、水晶の長さが音波の波長の半整数倍になると定在波が立ち、共鳴状態になります。(縦笛や横笛と同じです。)従って、電気回路の中に水晶振動子を挿入ことによって特定の周波数のみを選択的に発振したり選択したりできるのです。

Q43.   水晶振動子は電圧をかけると振動すると聞いたがなぜ振動するのか、水晶以外ではだめか。→A. 圧電効果といって、電圧の印加によってのびたり縮んだりします。共振回路のフィードバック回路部に水晶振動子を入れておくと一定の振動数で振動し続けます。セラミクスにも圧電効果がありますが温度特性などは水晶が一番です。

Q44.   水晶振動子に電気が流れると振動するがその逆も成り立つのか。 圧力で電圧が生じるのはわかったが、逆に電圧で振動するのがわからない。→A. 水晶は絶縁物なので直流の電気は流れません。電圧をかけると自発分極が変化し、イオンの位置がずれるのでわずかなひずみが生じ、その変位が格子振動として結晶中を伝搬し、固有振動の周波数で共振します。これが水晶振動子の原理ですが、分極の変化による電圧が生じて振動子の電極には交流の電圧が生じます。従って、水晶振動子をフィードバック増幅器の帰還回路に挿入するだけで、高周波の信号源を作ることが出来るのです。

Q45.   水晶発振器を換えるとCPUのクロックは変わるか。→A. クロック発生器やCPUがその周波数に対応できるものであれば変わります。しかし、通常はセットで変える必要があると思います

Q46.   分極の分類の最後にあったグラフがよくわからない。説明をお願いします周波数依存性のグラフの縦軸は何ですか分極が周波数により異なる寄与というのがわかりませんA  縦軸は比誘電率です。「参考資料」参照。

Q47.   誘電体に耐圧以上の電圧を掛けた場合、電子はどのようなプロセスで移動するのでしょうか。予想としては分子を破壊しつつ・・と思えるのですが。→A. 絶縁破壊のメカニズムは、必ずしもよくわかっていませんが、結晶を破壊する場合と、結晶粒界に沿って導電性のパスができる場合とがあります。アモルファスSiO2では、酸素が脱離してSi-Siの結合ができ低抵抗になるということです。なお、SiO2の耐圧は10-12MV/cm以上あるということです。

Q48.   誘電体は絶縁体として使われているのですか。電気を通さないのですか。→A. 誘電体は基本的に絶縁物です。

Q49.   クリスタルイヤホンは水晶の発振によるものか。→A. 圧電現象を利用しますが、結晶における音波の共鳴現象は使っていません。

Q50.   水晶がどんな振動をするのかイメージできません。 水晶はクォーツ時計ではどのような仕組みで使われているのですか。→A. 基本的には格子振動です。格子振動というのは原子の定常の格子位置からのずれが結晶全体に波として伝わる現象です。格子振動には音響モードと光学モードがありますが、固体中を伝わる音波は、音響モードの格子振動の一種です。カットした水晶の両端の間で反射して往復するとき、特定の波長のみが共鳴して振幅が大きくなります。両端が振動の節になることは、波動のところで学んだと思います。圧電効果があるとこの振動が電圧の振動に変換されます。この電圧を電子回路で増幅すれば周波数が正確な高周波が得られます。(実際には、正帰還回路に水晶をつかって発振回路としています。)クォーツ時計の場合、ディジタル式では、この信号のパルス数をカウントして表示します。アナログ式では、この電気信号で超小型のモータを動かして針を進めています。